Biodiversity

今回のテーマは、「生物多様性」です。

食品を販売する企業、木材を調達する企業など、特に自然資本に頼る企業はビジネスを行う上で生物多様性からの恩恵を受けており、生物多様性を損ない環境に負荷を与えてしまうことが最終的に企業のリスクを高めてしまう可能性があります。

ESGの観点では、企業の社会から求められる市民としての義務はもちろんですが、例えば、Eのコントロール不足=Gの不足評価となり企業価値の低下、結果、Sにより企業のレピュテーション低下・企業価値低下が想定されるようなケースです。


企業のリスク・機会の観点から見たサステナビリティイシューの重要性については、こちらの記事をご参照ください。

リンク先では、サステナビリティやESGの問題が企業に与えうるリスクや機会、企業に求められている役割などについてまとめているので、こちらを読んだ上で本記事を読み進めていただくとより理解が深まると思います。


生物多様性“Biodiversity”とは?

地球上の多様な種を育むエコシステムは私たち人間にとっても、海や山に生息している植物や動物にとっても非常に重要な働きです。

生態系が私たちに様々な恩恵を与えてくれていることを普段はあまり意識しませんが、エコシステムは私たちの生活を経済的にも、環境的にも、精神的にも豊かにしてくれています。

例えば、日頃飲んでいる飲料水、口にしている食物、肺に取り込む空気、これらは地球上にエコシステムが存在し、各個体が自らの役割を全うし、互いに良い関係で影響を及ぼし複雑に依存し合いながら作られるものです。

また、休日に公園や山に行くことがあれば、自然が織りなす季節ごとの鮮やかな景色が見るものを魅了し、私たちはそこにいるだけで幸せな気分になったり、リラックス出来たりします。

このようなエコシステムから享受している恩恵は価値の高いものでありながら、私たちは貴重な恩恵を無料で利用し、さらにそのエコシステムを破壊しようとしています。

現在のような複雑に絡み合ったエコシステムの構造関係の構築には何年もの月日を要し、発展の過程で多くの種が衰退と進化が繰り返され、最終的に現在の姿が誕生しました。

そのため、一度エコシステムが破壊されてしまうと、回復にそれ相応の時間が要することが容易に想像できます。

エコシステムの破壊とも捉えられる生物多様性の問題ですが、エコシステムと生物多様性の問題は密接に結びついています。

環境的要因によって一つの種が失われるだけでエコシステムはバランスを失い、これまで提供できていた生態系サービスを失うことになり、巡り巡って私たち人間にも大きな影響を与えることになるのです。

生物多様性の損失が私たちに与える影響

生物多様性の損失が私たちの生活に具体的にはどのような影響を与えるのか、以下ではその具体例をいくつかご紹介します。


経済的コスト

エコシステムの崩壊によって被る損失は、しばしば国のGDPに換算して計測されます。

生態系は、年間125兆~140兆ドル(世界GDPの1.5倍以上)の価値を生み出しているとされ、生物多様性消失のコストは大きいと考えられます。

また、1997年~2011年の間に土地利用の改編により失われたエコシステムサービスは年間4~20兆ドルとされています。

(OECD: ”Biodiversity: Finance and the Economic and Business Case for Action”(2019) p.9より)

病気の感染可能性

生態系が偏った土地ではエコシステムの機能と構造の両方が傷つけられ、生来の生物多様性が変容してしまいます。すると、生物間の交流環境や物理・化学的環境が変わり、そのような変化に影響されやすい感染性の病原体の温床、伝染が広まっていきます。

つまり、生物多様性が失われると、様々な種がいる場合よりも病原体が人間に移る可能性が高まり、病気を人間に近づけてしまのです。

WHO:World Health Organizationより)

世界中に急激に感染が拡大したコロナウイルスも、生物多様性の問題と無関係では無いかもしれません。

生活の損失

通常の日常生活に与える影響の他に、自然環境に大きく依存したライフスタイルを持つ地元コミュニティへの影響が考えられます。

都市化されていない昔ながらの生活を営む民族は世界各地に存在しており、多くの場合、彼らの生活は狩猟や採集によって食料を調達し、住居や衣服も自然のものから作られています。

生物多様性が失われ、調達資源が枯渇すると、彼らの生活に大きな損害を与えることになります。

自然の景観

保護されている地域外の自然環境は、守ろうする意思がなければ容易に破壊されてしまう可能性があります。

そのようなリスクにさらされている地域は少なくないため、私たちの身近に存在する自然の景観もいつ失われてもおかしくないような状況にあります。



問題を深刻化させている現状の問題

生物多様性を失うことに繋がる根本的な理由は何か、以下では考えられる主要な原因をいくつかご紹介します。


過剰な消費生活

この点は自明かもしれませんが、人間の消費生活は現在では過剰なものとなっています。

世界銀行によると、2050年までに世界の人口は約97億人になると推計されており、人口増加に伴う食糧への膨大なニーズが地球の供給範囲を超えてしまうことが危惧されています。

食糧の生産が追いつかなくなると、森林伐採を行って農地を拡大し生産量を確保しようとするため、多くの生物種が生息するトロピカル地域の熱帯雨林が失われることになり、生物多様性に甚大な被害をもたらします。

そして、人間が食している魚介類、哺乳類においても、その捕獲量が持続可能なものになっていない、つまり過剰だと考えられています。

「食物連鎖の頂点に位置する高次捕食者(大型の肉食動物や魚類など)が、人間の影響で減少し、それが生態系崩壊の主因となっている」という研究結果も報告されています。

さらに、食糧だけでなく、建築材料、製紙材料などに利用される木材の過剰生産も森林伐採を招き、土地を枯渇させてしまう可能性があります。

森林伐採の撲滅、フードロスの削減、持続可能な農業の推進も持続可能な発展課題として現在世界的に取り組まれていますが、供給サイドの改善だけでは持続可能な食糧の供給には限界があり、根本的に人間の消費生活・ライフスタイルを変えていく必要性があります。

国際間(地域間)の動物の取引

グローバリゼーションによって、多くのもの・ひとが自由に往来できるようになりましたが、生物多様性の面ではダウンサイドリスクがあります。

生物の存続には、一般的にその土地・地域の気候、土壌、水質などにおいて様々な環境的・物質的条件が満たされている必要があります。

以前に生息していた魚や植物がいなくなるということは、しばしばその土地に何かしらの変化が起こっていることを意味します。

この変化は自然に起こる場合も勿論ありますが、人間の活動が影響を与えている可能性の一つとして、その土地に属していない筈の外来種を持ち込み、その土地に根付かせてしまうということがあります。

生命力の強い種が弱い種を駆逐する侵略的な外来種の場合は、その土地の生態系を崩壊させたり、土壌・水質・病原体の拡散などで周辺地域の農業生産へ影響を与えたりします。

マイナスインパクトを与える企業活動

企業によって事業内容、バリューチェーンが異なるため、一概に一つの問題を提起することは出来ませんが、主に観察される事象として、産業用地拡大のための森林伐採、石油流出・工場排水などによる水質汚染、食品産業での過剰な捕獲・生産などがあります。

特に、グローバルな大企業はバリューチェーンを世界各地に展開させているため、地域ごとに詳細に調査しなければ、事業活動が生物多様性にどのような影響を与えているかを把握することは難しいと考えられます。

一般的に、企業活動が生物多様性の損失に影響を与える可能性がある場合には、政府が保護政策や活動規制を設けて企業活動を制限しますが、生物多様性の保護に向けて掲げられた国際的な政府間の目標を達成するためには、今以上により高い政府のコミットメントが求められます。

しかしながら、政府が動くのを待っていては生態系はどんどん破壊されていきます。

そこで、企業が積極的に生物多様性に取り組むメリットについて少し考えてみたいと思います。


ビジネスから見たエコシステムの重要性

多くの場合、企業は事業を行う上でエコシステムに強く依存しており、生態系の崩壊によって依存する基盤がなくなれば、事業を発展させていくことも企業が存続していくことも難しくなります。

例えば、製薬会社の場合、植物、菌類、海洋生物、昆虫、動物の遺伝資源は製薬開発で利用されており、生物多様性は新たな医薬品を生み出す可能性を大きく秘めています。

さらに、コミュニティから原材料を調達する際には、持続可能な供給を可能にするための適切なサプライチェーンマネジメント、コミュニティの生態系への配慮を行う必要があります。

また、保険会社の場合、自然災害による損害を保証する金融商品があれば、生物多様性の保護によって損害が避けられ、保証金額の支払総額を抑えられることも考えられます。

事前に生物多様性保護のための投資が必要になりますが、長期的には損害が発生する件数を抑えることで利益を得ることができます。

直接的に生物多様性に影響を与えていないとしても、バリューチェーン全体でみるとサプライヤーを介して甚大な影響を与えている可能性もあるので、現地コミュニティとエンゲージメントや調査を行い、適切にマネジメントを行っていくことが重要です。

魅力的な投資先

近年では、環境スチュワードシップに関連する金融商品も増えてきましたが、そのような投資先は投資家の目に魅力的に映っているようです。

原因の一つとして環境リスクマネジメントによって資本コストが抑えられる可能性があり、特に海外投資家などは環境マネジメントに対するリスクと機会の開示を求めています。

生物多様性を初めとした、環境への取り組みを加速させることは企業としての社会的責任を果たし、地球の持続可能性に貢献するだけでなく、資本市場でも評価されるようになってきているようです。


まとめ

生物多様性の問題は、気候変動と並ぶ重要な課題になると予想されています。

生態系の崩壊が、私たち人間や地球上に生息する様々な種の生命に甚大な被害を与える可能性があるからです。

誤解してはならないことは、エコシステム上で失われる生物種は存在する(自然淘汰など)ため、全ての種が永遠に存在できるようにすることを主張したいのではないということです。

生物多様性の損失で主張されていることは、人間が地球を占領するようになってからその種の減速スピードが過去にも増して早まっていて、このままのスピードで生物多様性が失われてしまえば人類に将来はないということです。

その減速スピードを食い止めるために私たち人間、そして影響を与えている企業がその活動を見直し環境保全に努めることで、エコシステムの崩壊を防ぐことに繋がります。

そしてその努力は、人類の将来、そして企業にとっても貴重な自然資本を育むことに繋がるのではないでしょうか。

キャスレーホールディングス株式会社

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