Food
日本で問題視されている食品ロスの問題。
レストランや小売店からの食糧廃棄、家庭からの賞味期限が切れた食品の廃棄が現在でも多く見られています。
日本は特に食品廃棄の量が多いとされていて、農産物が販売できる規格を満たしていない、あるいは健康上に特に被害がなくても食品の賞味期限を1日超えただけで捨ててしまう、などのもったいない現状があります。
このような背景から、近年、食品ロスに取り組む団体が増えています。
例えば、アメリカで初めに発足され、日本では2000年以降に設立され始めた「フードバンク」という一般社団法人があります。
食べる上では安全な商品なのに、何かの理由で流通に出すことができない商品を企業などから寄贈してもらい、必要としてる施設、団体、困窮世帯に無償で配布する団体です。
食品ロスの問題に加え、日本の貧困問題にも取り組もうとしています。
他にも、行政の取り組み(消費者庁)が見られます。
賞味期限は、あくまで食品をおいしく食べることができる期間であり、賞味期限経過後、すぐに廃棄する必要はありません。
その事実を改めて多くの国民に知ってもらうため、賞味期限に新たな愛称・通称を付けることで意識を変えようとしています。
その名前が、一般公募から選ばれた「おいしいめやす」です。
「賞味期限」は食品を捨てる目安ではなく、おいしく食べることができる目安ということを、分かりやすく示しています。
さて、今回はこのような「食」の問題に焦点を当てた記事を書いていきたいと思います。
”食”の生産サイド
食に関係する企業は、飲食業者はもちろんのこと、食品加工業者、農産物生産業者、漁業関係者など幅広く、最終的に人の口に食品が届けられるまでのサプライチェーン上に多くの企業が関わっていることになります。
食は、人間にとって必要不可欠な栄養源であり、毎日口にするものです。
栄養に富んだ食材が、安全な状態で人間の体に吸収されるように、生産する場所、方法、使用する肥料、エサなど、さまざまな要素を考慮しながら、生産者は食材を提供する必要があります。
冒頭で食品ロスの問題に触れました。日本は特に食品ロスの量が多いことで知られていますよね。
食糧自給率が低い日本にとって、確かに生産することよりも消費することへ目が向きがちかもしれません。
しかし、サステナビリティの文脈から考えると、食糧の消費サイドだけでなく、生産サイドにも目を向ける必要があります。
なぜなら、「農業・林業・その他土地利用」部門からの温室効果ガス排出量をすべて合わ
せると、世界全体の排出量のおよそ5分の1を占めるからです。(国連食糧農業機関(FAO)のレポート(2016)より、xiii)
私たちが口にする食糧を作り出すために、同時に、大量の汚染水や汚染物質も周辺の土壌や川・海に流れています。
グリーン革命(化学物質の使用などにより、農産物を効率よく大量に生産できるようになった)やモノカルチャー(本来は種の多様性を大事にすべきだが、需要に応えるため、一種の作物だけを大量に生産する)の発展により、現在までの農業の慣行は非常に悪い影響を環境に与えるものとなっています。
そこで、ビジネス上、農産物の生産に大きく依存している企業は、その生産方法や環境を見直し、持続可能なやり方に改善していく必要があります。
生産サイドの問題点
「持続可能な生産、消費を実現する」は、持続可能な開発目標のGoal12でしっかり定義されています。
模範的なビジネス活動としては、持続可能な生産・消費プログラムを実施する、ビジネスが環境や社会に与えている影響に関する情報を消費者に伝え意思決定に活かす、土壌を保全する、などがありますが、農産物の生産に関わる企業にとって、このゴールは無視できないものです。
また、ESGでいうと、E(環境)の土壌や気候変動とも大きく関係しており、生産サイドとしてどのような生産を行っているか、説明責任を果たす必要があるでしょう。
以下に、該当企業が取り組むことができるいくつかの問題点を列挙しました。
①化学物質の使用
最も良く知られている問題として、農薬や肥料に利用されている化学物質があります。
もちろん、人体に影響を及ぼすような化学物質が農産物に使用されないように、各国の農業分野の規制当局が規制リストなどを設け、検査を行い厳しく取り締まりを行いますが、農薬や肥料に使われている科学物質のうち、全ての物質の危険性が正しく実証されている訳ではなく、中には危険かどうか分からないまま使用されているものもあります。
また、化学物質の利用は人体に影響を与えることはさることながら、生産を行う回りの環境に多大な影響を与えます。
特に、回復に何千年もの時間を要する土壌が一度劣化してしまうと、元の肥沃な状態に戻すまでに相当な努力が必要となります。
化学物質の利用によって土壌の絶妙な成分バランスが崩され、さらに必要な成分がなくなったことで追加の化学物質が必要になるという、悪循環を生み出します。
化学物質を使わない農法には、有機栽培などがあります。
有機栽培には、農産物のたい肥化、多種類の農産物をバランス良く育てること、土壌保全のために多年草を育てることなど、必要な要素があります。
②土壌の劣化
①の化学物質の利用に加え、その土地に適していない品種の生産や、季節に合わない品種の生産を無理に行おうとすると、土壌に大きな負荷がかかります。
また、土壌が次の生産までに必要な回復期間を設けないで、次の生産サイクルに突入するような多毛作も、土壌の質を悪化させる原因になります。
土壌は農産物の生産にとって基礎となるものです。
肥沃な土地がなくなってしまうと、生産される農産物の栄養価も低くなります。
農産物の品質を向上させるためにも、土壌は農業にとって非常に重要なファクターです。
また、土壌に影響を与えるのは農業だけではありません。
畜産業で利用される牛舎や鶏舎からも汚染水が誤って排出されてしまう可能性があります。
化学物質が含まれた汚染水が土壌に漏出すれば、帯水層にも影響し、私たちの貴重な飲み水も汚染されることになりかねません。
③地産地消文化の喪失
流通・分配のシステムが発達するまでは、肉・魚・野菜などの全ての食材は地元で生産され、地元で消費されていました。
これには、「食品の時間」が関係しており、食品が運ばれる距離に限界があるからです。
現代の冷凍技術、缶詰、照射技術などが発展してから、あらゆる食材を比較的長距離で運ぶことができるようになりました。
食材を長距離で運べるようになることは良いことだと考えられますが、一方で、生産地から消費地が遠くなったことで、生産サイドの情報を手に入れることが難しくなりました。
検査を経て認証を獲得している食材ならまだ安心感はありますが、どこでどのように作られたか分からない食材を口にするのは、少し抵抗感がありますよね。
地産地消の良いところは、まず上記のような生産サイドの情報が比較的詳細に入手しやすいことにあります。
また他の良い点として、地域の住民の需要を満たすだけの食材を現地で提供できるようになれば、地域の食に対するレジリエンスが向上します。
仮に、大きな自然災害が発生し流通システムが崩壊しても、地域で需要を満たすことができる体制が構築されていれば、食に困ることはないと考えられます。
農業分野で改善に取り組む企業の事例
以上のような問題点を踏まえ、企業としてどのような改善に取り組んでいくべきでしょうか。
いくつかの事例をご紹介します。
Casley India, Inc. のインド事業(JICAとの共同プロジェクト)
まず初めにご紹介したい事例が、グループ子会社である Casley India, Inc. がJICAと共同して行うインド事業です。
インド事業では、インドの北部に位置するヒマ―チャル州とウッタラーカンド州にサプライヤー(農家)を持つ現地のプロジェクトと提携し、インド農家の所得向上、及び生活水準の向上に取り組んでいます。
インド事業は農家の生活水準を向上させること以外にも、農地の土壌改善にも取り組んでいます。
日本の土壌改善の専門家と協力して、現地の土壌特性に応じた改善を現在進行形で行っています。
特にウッタラーカンド州においては、有機栽培を推奨している政策的な観点も含め、有機栽培が実践されています。
具体的には、肥料の生成に糞尿や落ち葉が利用され、さらに農薬は使用せず、山地という特性を活かした積雪に頼った害虫予防などを行っています。
現地の農家の多くは中小規模の農家であり、有機栽培を行う上で適した環境にあります。
ただし、土壌の状態が劣化しているので(原因は調査中)、土壌の回復を行いながら、より良い有機栽培の形を目指していくと思われます。
さらに詳細を知りたい方は、以下のリンクもご参照ください。
【アジアで会う】土屋のり子さん トマト・プロジェクト代表 第303回 農家と消費者をおいしい野菜でつなぐ(インド)
Bayer AG
ドイツに本社を置くBayer AGは、人体の健康と農業に専門性を持つライフサイエンスの会社です。
主な商品として、心臓病や女性のヘルスケアなどに特化した特殊医薬品、薬局などで販売される一般医薬品、種子や作物保護または非農業用の害虫駆除商品の3つのセグメントを持っています。
Bayerは、サステナビリティを経営の中心に据えており、企業の行動規範を始め、調達やサプライヤーの選定などに際して、多くのポリシーを表明しています。
具体的に掲げているサステナビリティのターゲットは、小規模事業者の支援、避妊へのアクセス、自己治療へのアクセス、気候保護の4つの領域です。
農業事業に注目して企業の取り組みを見てみましょう。
今回ピックアップするのは、生物多様性への取り組みです。
生物多様性は現地コミュニティとの関係も深く、農業分野の他企業が行っている取り組みと比べても比較的先進しています。
まず、重要な働きをする花粉媒介者(ポリネーター)である蜂がBayerの農薬から受ける影響を、研究施設と共同で調査しました。
すると、商品が適切に使用されている限り、農薬が蜂が土地から消える直接的な原因となるような副作用がないことが証明されました。
また、遺伝子組み換え植物が野生の植物と交わることで環境に悪影響が与えられることが一般的に危惧されていますが、ネガティブな効果は特に見られず、さらにある特定の遺伝子組み換え植物に至っては、ポジティブなインパクトを与えることが分かっています。
Bayerの賞賛ポイントは、生産性を高める方法でサステナビリティを実現する方法を模索している点です。
企業としてビジネスの観点から利益を損なうことなく、一方で、企業としてサステナビリティを実現しようとする姿勢は、正にサステナビリティ経営と言えるでしょう。
その一つの取り組みとして、デジタルファーミングを推進しています。
デジタルファーミングの目的は、生産性と持続可能性を同時に上げることですが、生物多様性にも貢献しています。
例えば、カメラが搭載されたドローンを農地の上空に巡回させることで、作物の状態を初期の段階から見ることができるようになり、農薬をよりピンポイントで使用できるようになります。
まとめ
食の問題は特に、コミュニティと関係が深いです。
なぜなら、コミュニティで食を生産することは、コミュニティの結びつきを強くし、市民のコミュニティへの理解を促進し、エコシステムに準ずる理想的な暮らしを可能にするからです。
そのため、企業もコミュニティ内での生産消費を促せるようなキャンペーンを行い、サプライヤーにそのような場を設ける工夫が必要になってくるかもしれません。
ビジネス上で農産物の生産に大きく依存する場合は、上記でご紹介した問題点、企業が行う改善の事例を参考に、長期的なビジネスの発展を可能にするためにもバリューチェーンの見直し等を行う機会を設けることができるでしょう。
また、自社のインパクトマネジメントサービスでは、インパクトの観点からバリューチェーン分析を行いますので、ご興味のある方はこちらのリンクもご参照ください。
最後に、私たちに必要不可欠な”食”の未来を守るためにも、企業として協力できることには積極的に協力していきましょう!
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