Inequality issues

サステナビリティの問題の一つである「不平等問題」ですが、近年、研究が進み、多くの研究結果から不平等問題が経済発展、社会、環境問題に深く関係していることが分かっています。


不平等問題には、賃金格差、人的差別、国家間格差などがあります。

不平等問題自体にも注目すべきですが、問題に取り組む際にはどのような不平等問題が何の改善に役立つのかを確認する必要があります。


例えば、コミュニティの貧困緩和には、個人、グループ、国家、どのレベルで問題に取り組むべきか、またどのような平等ファクターが長期的なサステナビリティに貢献するかを判断する必要があります。

そして、コミュニティの貧困緩和とは何を指し、最終的にどのような指標で達成を計測することができるか、などについても詳細に議論する必要があります。


市民が企業に貢献を求める不平等問題には、賃金格差の経済的問題、採用や昇進での男女、国籍、宗教などをベースとした不平等問題などがあります。

前者は、操業する地域で従業員に支払われている賃金を現地の法的な最低賃金と比較することで、公正な賃金の支払いに取り組んでいるかを知ることができます。

また、後者は、従業員や管理職の男女・国籍比率で、企業が採用や昇進に対して、透明で適切なスタンダードやポリシーを持っているかを知ることができます。


企業として不平等問題に取り組む場合、まずはその背景知識を理解したうえで、企業として取り組むことができるエリアを見定める必要があります。

関連性を見出すことができれば、新たなビジネスチャンスになる可能性もあるでしょう。


本記事では、このような「不平等問題」について話を進めていきたいと思います。



3つの不平等問題

不平等とは、一般的に平等でない状態のことを指します。

資本の分配に偏りがある場合や、制度の適用が汎用的に行われていない場合などに、不平等な状態ということができます。

今回はそのような不平等問題の中でも、3つの問題について取り上げます。


賃金格差の問題

地域、性別、人種、年齢などの違いが原因で、同じ労働に対して同一の賃金が支払われず、労働者の間に賃金の差が生まれる状態のことを賃金格差と言います。

一般的に、「同一労働同一賃金」の問題として知られています。


国連のウェブページ(Goal 10: Reduce inequality within and among countries)によると、

所得の不平等のうち、男女間を含む世帯内の不平等に起因するものが30%に及び、女性は男性に比べ、平均所得の50%未満で暮らす可能性が高くなっている、とされています。

日本では、正規雇用者と非正規雇用者が同じ仕事をしていても、雇用形態の違いで賃金に差が生まれている現状を踏まえ、企業は働き方改革の一環として同一労働同一賃金に取り組んでいます。


日本から海外に対して取り組みを行う例としては、平均賃金が低いコミュニティに位置するサプライヤーに対して、平均賃金を上回る額を安定して支払うことを保証することができます。

また、金融サービスを提供する主体であれば、ファイナンシャルインクルージョン(あらゆる人々の金融セクターへの参加を阻止する障害を除き、生活を向上させるための金融サービスを利用できるような状態にする)を高めるために、低所得者でも利用できるような各種サービスを提供することも考えられます。


不平等問題は先進国でも発展途上国でも見られますが、所得の不平等がより大きい国では、難民が職につけなかったり、政治情勢が安定していなかったりします。

所得の不平等は、他の社会問題と密接に繋がっている可能性があります。


差別問題

倫理的問題、人権問題としても捉えることができますが、社会的立場の弱いコミュニティやグループが不当な扱いを受けたり、基本的な権利をはく奪されたりすることがあります。

最近では、アメリカのミネソタ州で白人警察官に無抵抗のまま殺害された、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんの悲しいニュースがありました。

世界中には沢山の差別問題がありますが、性差別、人種差別、LGBTQ+の問題は最低限理解しておく必要があるかもしれません。


ここで言う性差別とは、男女の違いで機会や処遇に差が生まれることを指します。

職業、受験、家庭内の役割など、偏見や固定概念から男女という性で機会が限定されてしまったり、本人が望んでいないような処遇を受けたりします。

特に、企業での女性管理職・取締役の割合、あるいは政治での女性政治家の割合などがよく取り沙汰されます。

男性も女性も平等な環境で平等な機会を享受し、各人の潜在的な可能性を最大限に発揮できるようなサポートが必要です。


自分たちの人種以外の人間を人種の違いだけで軽蔑したり、排他的になったりすることを人種差別と言います。

世界中で移民や難民はたくさんいますが、文化・風習の違い、考え方の違い、風習の違いなどから、受け入れる国にとってはお互いへの理解を示すことが大切です。

ジョージ・フロイドさんの事件も人種差別の問題と関係していますが、現代でも人種の違いによって人に対する態度が変化するという現状があります。


最後に、「LGBTQ+」の言葉で知られる性的指向の問題です。

左から、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング(クィア)のことを指しています。

性的指向は実際のところ、数えきれないほど存在するため、最後に+が付く上記の呼び方の方が親切です。

性的指向が違うだけで、性差別や人種差別と同様に、何らかの差別を受けることがあります。

LGBTQ+も国に関係なく、どのようなコミュニティでも容認されるべきであり、社会的サポートが必要となります。


国家間格差(南北問題、南南問題)

国内の不平等問題があれば、国家間の不平等問題もあります。

先進国と発展途上国の間に生まれた格差のことを南北問題、発展途上国のうち、工業化や資源の豊富さに恩恵を受けて発展した国とそうでない国に生まれた格差のことを南南問題と言います。


南北問題は、過去のロシアとアメリカの東西問題になぞらえて名付けられた名称ですが、比較的、発展を遂げている国が北半球に、そうでない国が南半球に集まっていることに起因しています。

南北問題といっても、ブラジル、ロシア、中国などの工業化で発展した国も発展途上国に含まれていることもあり、その定義は少し曖昧です。

2000年代以降はそのような発展国が経済成長を遂げ、輸出量を伸ばしました。


国家間の格差によって、特定の国の発言権・存在感の低下、持続可能な開発目標の達成に向けた国際協力への拒否、国際間での政治的分断などの問題が危惧されます。

また、経済的に発展していない国は政治情勢が不安定で犯罪が蔓延しているなど、国家間格差は市民生活にも直接的に関わる重要な問題です。



不平等問題に与えるコロナの影響

コロナによる影響は、不平等問題をさらに悪化させています。


世界銀行によると、昨年の2020年に8800万人から1億1500万人の人々が新たに極度の貧困状態(1日1.90ドル以下で生活している状態)に陥り、2021年に最高で合計1億5000万人まで上昇すると推定されています。

極度の貧困状態の人が増えると、所得の不平等がさらに広がることになります。


また、コロナは特に社会的弱者に対して影響を与えており、ご年配、障がい者、子ども、女性、移民と難民の5つの脆弱なグループの人々が、経済的、健康的に苦しみやすい状態となっています。


社会経済的なコロナの影響を緩和するため、現在、国連を初めとする国際組織やさまざまな基金が積極的なサポートを行っています。

コロナはヘルスケアサービスなどの健康システム上の課題が浮き彫りになるだけでなく、個人、グループ、国家レベルでの社会的レジリエンスの高さも明らかになります。

現在のコロナの状況で、「誰一人取り残さない」ためにも、より強靭で柔軟なサポート体制が必要とされています。



不平等問題に取り組む企業の事例

ビジネスの発展において、消費者の消費を促進し経済の循環を良くさせることは非常に重要です。

企業が操業を行うコミュニティの従業員やサプライヤーに、平均賃金より高い賃金を適切に支払うことで、中間層の醸成に繋がり、コミュニティでの消費を促し経済を循環させることができるかもしれません。

また、不平等問題が生み出す犯罪や健康上の問題も緩和され、健全な経済活動も期待できます。


一見すると、企業が不平等問題に取り組むことが利益に繋がらないように見えても、企業が社会的立ち位置を明らかにし、行動に移し、積極的なイニシアチブを取っていくことで、レピュテーションの向上や優秀な人材の流入などを見込める可能性があります。


以下では、不平等問題に取り組む事例として、2社の取り組みをご紹介します


HSBC Holdings plc

イギリスに本社を置くHSBC Holdings plc(以下、HSBC)は、国際ニーズを満たす地方銀行として1865年に創立され、現在、64の国と地域で操業を行いながらヨーロッパとアジアを繋ぐ重要な役目を果たしています。


HSBCは、多様性とインクルージョンがビジネスの長期発展を支える原動力だと考え、様々な先進的取り組みを行っています。

従業員の多様性とインクルージョンを向上させることが企業の成長を支えるとともに、従業員のウェルビーイングやメンタルヘルスに良い影響を与えると考えています。


具体的な取り組みとして、女性の管理職割合を30%まで上昇させることを目指す団体である「30% Club」と協力し、2020年までに管理職の割合を30%にまで上げる目標を掲げています。

2019年時点で29.4%であったため、2020年目標に向けて順調に前進していることが分かります。

従業員同士のネットワークを活かした取り組みとしては、”Balance for better”キャンペーンがあります。

国際女性デーに行われるソーシャルメディアキャンペーンで、大成功を納めました。

さらに、女性社員に対する取り組みとしては、高いパフォーマンスを出す管理職の女性を支援するための”Accelerating into Leadership”プログラム(コーチングや能力開発の提供)、新米ママや妊婦向けの子育て施設の設置などを行っています。


HSBCは賃金格差の問題に積極的に取り組んでいます。

HSBC UKが発行した男女の賃金格差に関するレポートでは、賃金格差の問題点、企業の取り組み、重要なファクターなどについて調査されています。

イギリスに本社を置くHSBCは上位の管理職ポジションがイギリスに集中しやすいにも関わらず、イギリスでの男女別のポジションを見ると、男性の管理職ポジションの割合が高く、女性のパートやジュニアポジションの割合が高い現状があります。

ホールディングス全体の数字としてだけではなく、賃金格差が特にどの地域に起因しているのかを調査することでより有効な策を打つことができます。


その他、コミュニティでのファイナンシャルインクルージョンの取り組みも見られます。


Sales Force

アメリカを拠点に全世界でテクノロジーサービスを展開するSales Forceですが、不平等問題に対する取り組みにも力を入れています。

Sales Forceはコアバリューの一つに平等を掲げており、不平等問題に取り組む姿勢、責任、具体的な行動、ポリシーを明確に表明しています。

さらに、迫害、暴力、人種差別の被害を受ける黒人コミュニティの味方であり、企業が行動を起こすことで、社会的変化を生み出すことができると信じています。


2020年6月、新たに”a Racial Equality and Justice task force”が形成されました。

タスクフォースは4つの領域(人、慈善事業、購買、ポリシー)で取り組みを進めています。


人である従業員に対しては、より平等な採用を実現するために新たな「平等と採用」のチーフオフィサーポジションの設置、平等な文化やマインドを形成する次世代リーダー育成メンターシッププログラムの用意、同一労働同一賃金への取り組み、社会的マイノリティの就職者や従業員が声を上げることができるような「平等サークル」という安全な場所の提供などがあります。

慈善事業では、コロナの被害を受ける社会的弱者を支援する団体に寄付を行っています。

また、購買によって、サプライヤーの多様性を促進するために、傘下のベンチャーキャピタルが黒人コミュニティに出資を行ったり、「いくら費やすか」ではなく「どれだけインパクトが生まれるか」を基準にすることで経済的インパクトをより大きくしたりしています。


そして、Sales Forceは実際に活動を行うことで、特定の問題に対する公共ポリシーにも影響を与えようとしています。(警察、ヘイトクライム、刑事司法など)



まとめ

持続可能な開発目標のGoal10「人や国の不平等を無くす」で、世界の不平等問題は定義されています。

不平等問題も世界的に解決が急がれている課題の一つです。


経済的観点から、社会で取り組まれべき領域の不平等問題に企業は関わるべきではないという意見もあります。

確かに、政治的な要素に絡む可能性のある不平等問題に企業が具体的に何かの対策を打つことは少し難しいかもしれません。

そのため、企業が提供する商品やサービスでコミュニティの不平等問題に取り組むことができるかをしっかり見極め、戦略を練る必要があります。


また、不平等問題を解決することは、上記で示した通り、他のサステナビリティ問題に繋がっていることが多いため、企業が与えるソーシャルインパクトを拡大できると考えられます。

市民を含めたステークホルダーの意見、企業責任の範囲、コミュニティの政策などを参考に、不平等問題に取り組むべきかを判断できるとよいでしょう。

キャスレーホールディングス株式会社

キャスレーホールディングス株式会社のコーポレートサイトです。 当社は、経済的価値と社会的価値の同時創出(CSV:Creating Shared Value)を、最先端のICTで実行する企業の持株会社です。 システム開発、画像解析(AI、深層学習)、アグリテック、フィンテック、ハードウェア(FPGA、GPU)などの技術を保有する会社へのインキュベーション・統括をしています。会社概要・理念・研究など。