Sustainability in Cities
グローバル企業は世界中にバリューチェーンを拡大し事業を行いますが、その過程でコミュニティの自然資源を調達したり、従業員を雇用したり、工場の操業を行ったり、土地の開発を行ったり、様々な形で影響を与えています。
実際に、企業活動によって悪影響を受けたコミュニティの人々が企業に対して被害を訴える訴訟を起こすケースも、世界中で頻繁に見られます。
企業はコミュニティと良い関係を構築し、同意の下で事業を進めていかなければ、訴訟による遅延リスク、遅延による財務リスクなど、思いがけないリスクに直面することとなります。
発展途上国や企業活動に厳しい規制が設けられていない国で、このようなコミュニティに悪影響を及ぼす活動が比較的多く見られます。
現地で十分な規制や法律が施行されていなかったとしても、各企業は国際基準に照らし合わせて活動を評価し、必要であれば撤退や事業計画の改善を行う必要があります。
行動規範の中に、責任のある倫理的な企業活動を行うと明文化している企業であれば、そのようなコミュニティへの影響アセスメントを独自に行い、現地のステークホルダーとのエンゲージメントの機会を積極的に持っていると考えられます。
では、企業がコミュニティに関与する形で事業活動を展開する場合、具体的にはどのような点に注意すればよいのでしょうか?
本記事では、都市のサステナビリティというテーマで、サステナブルなコミュニティの意味や必要な要素、企業が関係すると考えられる領域のスコーピング、実際に企業が関与し改善された都市の事例などについて見ていきたい思います。
サステナブルなコミュニティとは?
企業がコミュニティに対して何かのコミットメントを行う場合、より有効的で支援的な策を講じるために、まずはそのコミュニティにとっての理想的な都市の形を知る必要があります。
一般的な模範対象が、「サステナブルなコミュニティ」です。
サステナブルなコミュニティの定義は、団体や組織によって様々な言い方がされていますが、重要な要素として、
・コミットメントの醸成
住民のコミュニティに対するリーダーシップとエンゲージメントを高め、開発の計画段階から参画し意見を実際の行動に反映してもらうことで、より現実的、革新的で、現地に適応する開発を行う
・ウェルビーイングへの貢献
健康を保つための最低限の治療を提供することに加え、人と自然の繋がり、社会的交流スペース、文化・芸術に触れる機会を作り出すことで、住民のウェルビーイングに寄与する
・環境保全
自然資本を保護するための具体的な政策や規制を立案し、住民の環境を保護することでコミュニティのエコシステムを保全し、そのサイクルの中で住民のために資源を活用する
・セーフティネットの設置
コミュニティで差別や不平等問題に起因する様々な問題の発生を防止するために、原因となる環境を排除し、そのような立場にある住民を経済的、社会的に支援することができる社会保障を充実させる
の4つの要素を例として整理しています。
サステナブルなコミュニティと言われると少し広義に解釈されますが、上記で挙げた「住民のコミットメント」「住民のウェルビーイング」「コミュニティの環境保全」「社会的なセーフティネット」といった、より明確な観点からコミュニティを観察することで、特にどの点において改善が必要であるのかが見えてきます。
また、「サステナブルなコミュニティ」に対峙する概念の一つに、「都市のスプロール化」があります。一般的にスプロール現象と呼ばれていますが、都市の郊外に向かって無計画に土地開発が進むことを指します。
スプロール現象で土地開発が行われた場所はインフラ整備もままならず、人々の生活と自然が断絶された状態になってしまっているなど、住民にとって生活しやすい居住環境となっていないことがしばしば見受けられます。
また、環境的な側面から見ても、無計画な土地開発は学校、病院、市役所、商業施設と住民との距離を遠ざけ、自動車による移動を促し二酸化炭素の排出量を増加させます。
自動車での移動が当たり前の状態になると、建物がグリーン建築であっても二酸化炭素の総排出量が増えてしまい、都市内で公共施設を利用しながらグリーン建築でない住居に住む場合と比べて大きな効果が得られないことも考えられます。
一般的に、居住区域、都市開発区域、産業集積区域などの土地開発において、政府が定めた土地区画に基づいたゾーニングが行われています。
工場、支社、直営店、子会社、ビジネスパートナーなど、直接的な影響をコミュニティに与える企業活動は業界、業種によって様々ですが、企業が活動を行う地域と住民の生活範囲となるコミュニティ、都市との関係を地理的に把握し、どこの誰(何)に対してどのようなコミットメントを行うことができるかをまず調査する必要があります。
さらに、コミュニティごとに抱えている問題は違うので、エンゲージメントを通じて住民のニーズを適切に理解した上で戦略を考えると、より本質的な取り組みに繋がると考えられます。
サステナブルなコミュニティを築く上で、企業ができる最善の貢献をすることが最も望ましい形ではないでしょうか。
対象となる領域のスコーピング
サステナブルなコミュニティに貢献すると言っても、企業が重要課題を特定するのと同様に、活動を行う領域を絞る必要があります。
例えば、現地でファイナンシャルサービスを提供する企業であれば、現地のファイナンシャルインクルージョンを高めるための新たな金融商品やチャネルの構築が考えられ、現地で自然資本を調達する食料品関連企業であれば、現地で活動を行う団体と協力して実際に企業がコミュニティの環境に与える影響を調査したり、資源の利用効率を高める方法を模索したりします。
企業によっては、コミュニティに対して具体的な行動を行うよりも、現地で既に行動を行うNGOなどの組織に寄付を行うことの方が現実的な場合もあります。
企業はビジネスの視点からもコミュニティエンゲージメントを評価しなければならないので、コミュニティに対するコミットメントの度合いにも企業間で差があります。
しかし、企業に必要とされるコミットメントは、現地の企業に対するニーズに左右されます。
企業として金銭的な援助を行うのか、それともサステナブルなコミュニティに貢献する具体的な行動を起こすのか、現地のニーズを元に判断する必要があります。
また、コミュニティに注力する企業の多くはレピュテーションの向上を期待できます。
レピュテーションの向上は、優秀な人材の獲得・管理、売上の増加、良好な関係構築による活動拠点の横展開、健全なサプライチェーンマネジメントなどに繋がりますから、コミュニティへの貢献は多くの企業にとって重要であるはずです。
しかし、現地のニーズや課題に沿わない活動をしても、そのような効果は期待できません。
以上のことから、企業として貢献できる範囲、コミュニティの真のニーズ、最終的にビジネスに貢献する要素を見極め、企業として活動する対象範囲を絞り、集中的にリソースを投下し、意味のある貢献を行えば、長期的にビジネスが発展する基礎を作ることにも繋がると思われます。
ケーススタディ① <人々のウェルビーイング>
サステナビリティを経営のコアに据える多くのグローバル企業は、コミュニティエンゲージメントを様々な理由から重要視しています。
鉱業、採掘産業の企業であれば、現地の人々と良い関係を築くことで、円滑なオペレーションに繋がりますし、現地で作業をする従業員のほとんどがコミュニティの人々ですから、コミュニティへの還元活動は従業員の生活にも直接的に繋がることになります。
また、一般消費財を製造する企業であれば、特定のターゲットを設定して製品やサービスの設計、デザインを行う際に、そのターゲットを深く理解し、彼らの目線から本当に必要としているものや日々の生活で役立つものを開発する必要があります。
ターゲット層がマイノリティであったり、サステナビリティに敏感な若年層であったりすると、これまでのマーケット戦略が通用しなくなり、新たな価値観・生活スタイルに沿った製品やサービスを提供しなければ、企業の売上は伸びません。
そういった場合にも、コミュニティエンゲージメントを通じてターゲットグループと交わる機会が増え、彼らに対する理解を深めたり直接的にニーズを聞き出すことができます。
効果的なコミュニティエンゲージメントを行うためには、企業で戦略を練る必要があります。
エンゲージメントの手段、対象、取り組む課題、範囲など、詳細に設計することで目的を明確化し、期待される成果を得ることができます。
以下では、いくつかの企業から、コミュニティエンゲージメントにおいて特に素晴らしい取り組むを行う事例をご紹介します。
The Coca-Cola Company
コーラでお馴染みのコカ・コーラ(本社:アメリカ、ジョージア州、アトランタ)は、世界最大の飲料企業です。
コカ・コーラのポートフォリオには、ダイエットコーク、ファンタ、スプライト、コカ・コーラゼロ、ビタミンウォーター、パワーエイドなどのブランドがあります。
持続可能なコミュニティの構築、環境フットプリントの削減、アクティブで健康的な生活のサポート、従業員のための安全で包括的な職場環境作り、事業を行うコミュニティの経済発展を促進する活動などを行っています。
コカ・コーラはコミュニティエンゲージメントの一つとして、アフリカで全ての人々に医薬品を届けるためのプロジェクト「Project Last Mile」を2010年より開始しています。
医薬品さえあれば治療することのできる病気が原因となって亡くなる人口が多いことから、医薬品を必要とする人々に医薬品を提供できる体制を構築する必要があると考えた同社は、自社が保有するグローバルなサプライチェーン、物流システムを活用し、医薬品の流通を改善させる取り組みを行っています。
現地で医薬品の流通が広がっていない原因として、伝統的な流通システムの非効率さ、ヘルスケアサービスを提供するマーケティング力の不足、システムを機能させるためのスキルの欠如があると考え、流通システムの再構築や現地で必要とされるスキルの提供などを行っています。
またこのプロジェクトを実施するにあたって特に強調されている点が、パートナシップを大切にしているところです。
ウェブサイトに掲載されているグローバルパートナーとして、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を含めた5つの組織(コカ・コーラ除く)が紹介されています。
プロジェクトによってコミュニティに実際に与えられた効果の計測は、The Yale Global Health Leadership Initiativeによって行われており、結果の概要はこちらのPDFにまとめられています。
コミュニティでの活動はアフリカ政府の協力も得ており、プロジェクトのゴールと政府の健康・医療を担当する省のゴールが一致する形になっており、企業としてのコミュニティエンゲージメントを超えて、国レベルで現地の課題を解決できる段階にまで達しています。
企業のエンゲージメントのレベルは様々かと思われますが、これほどの高いコミットメントがあれば、コミュニティの企業に対するレピュテーションは確実に高くなるでしょう。
既に保有している企業のリソースを活かした良い事例です。
ケーススタディ② <都市デザイン>
つづいて、サステナブルな現地コミュニティの事例をご紹介します。
サステナブルなコミュニティの計画には、都市開発の専門性や自治体の協力も必要になるため、生活に関わる建築関連の開発・建設業者、デザイン事務所、インフラ産業の企業などの方がより関与する可能性が高くなると考えられます。
ブランフィールド(産業から排出された有害物質による土壌汚染の懸念があり、現在利用されていない土地)やグリーンフィールド(まだ利用されていない未開拓の土地)の開発は、一般的に公共機関や開発業者によって進められます。
しかし、小規模で一部の土地の開発を行う場合、現地の自治体、ユーティリティ関連業者、現地の公共施設、非営利組織、開発業者、近隣に住む住民などを巻き込むことで、サステナブルなインフラや建築の構想を、既存のコミュニティの環境に融合させることができます。
このような小規模で、サステナブルコミュニティとして開発される土地のことを「エコディストリクト(eco-districts)」と言います。
取り組みは自発的であり、多くのステークホルダーのコラボレーションがあって初めて実現するので、企業も専門性や技術を利用し開発に参加することでサステナブルなコミュニティの実現に貢献することができます。
以下では、エコディストリクトとして有名なエリアである海外の事例を挙げています。
Hammarby Sjöstad in Stockholm, Sweden
2004年開催の夏オリンピック開催地選考の際に、スウェーデンがオリンピック村の候補として挙げた場所が、このハンマルビー・ショースタッドです。
現在は、特に環境に優しい設備やデザインが意識されたストックホルム内の地区となっています。
多くの努力によって、元々は産業地帯であった場所が持続可能なウォーターフロントの住宅街に改善された良い例です。
市内では、持続可能な公共交通機関として、電車、バイオガスを動力源とするバス、通勤用ボートが提供されており、自転車、徒歩、相乗りも推奨されています。
二酸化炭素の排出量が削減され、人々と自然や社会との繋がりが生まれ、精神的で健康的な生活の営みを増進します。
自動車を保有する世帯もあり、駐車場や道路の整備もされています。自動車の利用が禁止されている訳ではありません。
住民が利用するバイオガスを生産するために、住民にはリサイクルステーションと定期的な食品廃棄物の収集が提供されます。
これらは住民のイニシアチブによって成り立つものですが、実際のところは住民グループの全てが地区の環境ソリューションに沿った行動をするわけではなく、想定されていた行動計画への理解が得られないこともあるようです。
地区センターでは、エコディストリクトのプランニングや初期に想定されていた環境目標に即した住民の望ましい活動に関する情報などを随時紹介しています。
また、全てのアパートはコミュニティの暖房システムに接続されており、家庭ごみはコミュニティの暖房プラントに燃料を供給することができます。
地区内のアパートにはバイオガスストーブが設置されていて、一部のアパートメントには太陽熱温水もあります。
全てのアパートからの下水は浄化され、地元で使用されるバイオガスを生産するために使用されています。
このように、住民の活動に左右される要素が少ない建物の建築やシステム整備は、開発業者が環境パフォーマンスを向上させるソリューションを提供することで、住むだけで持続可能な生活に貢献することができる建物を建築できます。
まとめ
コミュニティが抱えている課題は地域によって違います。
企業の活動範囲が広範囲に広がっていればいるほど、特にコミットメントが必要な地域を優先順位付けし、上位の対象地域に注力する方がより効果的な策を取ることができます。
また、コミュニティエンゲージメントを行う際には、対象の企業が持つリソースを活かし、どのような形で貢献することができるのかについて、効果的で永続的な方法を考える必要があります。
特定の課題は企業が持つ専門性を活かすことで解決されるということが、上記でご紹介した事例でもお分かりいただけたと思います。
社会問題に取り組む企業は前にも増して増えましたが、コミュニティに貢献する活動を行うためには、コミュニティにとってのサステナビリティを考え、それを実現するために企業が手を差し伸べなければなりません。
企業としての優先順位、現地コミュニティの課題、この二つが重なり合うところに新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
両者の視点を大切にしたいですね。
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