Poverty

こちらの記事では、貧困とビジネスの関係について執筆していきたいと思います。


貧困問題は国際的にも深刻な課題なので、明らかになった貧困の複雑な原因や発生メカニズムに対する対処は一方的な支援でなく、貧困層の人々を根本的に支援するための全体的なアプローチでなくてはなりません。


一時的な金銭的支援も勿論必要ですが、彼らが経済的に自立した生活を送るためには一方的な支援だけでは不十分で、同時に教育や技術の習得を可能にする機会の設置も必要です。


近年では、貧困層をターゲットとするBOPビジネスも登場し、ビジネスを通じた貧困問題への貢献が可能であることも証明されています。


今回は、そのようなビジネスと貧困の関係を深堀りしていきます。


問題となる貧困レベルとは?

国連が定義している「貧困」の内容によると、貧困は持続可能な生活水準を保障するための収入と生産的な資源へのアクセスの欠如とされており、飢餓や栄養失調はもちろんのこと、教育や他の必要最低限のサービスへのアクセスの制限、社会的差別や排他、意思決定への不参加なども含まれています。


皆さまもご存じの通り、貧困は以前のミレニアム開発目標、現在の持続可能な開発目標で掲げられているほど、世界で重要な問題と認識されており、非常に根深い社会問題となっています。

政治、地理的環境、民族構成、国の経済発展など、貧困を引き起こす要因は社会システムの様々なところに散らばっており、貧困に苦しむ人々を救済するためには、社会構造の変革も同時に必要になると考えられます。


国連が公開している貧困に関する数値をこちらで引用すると、2018年時点で世界中の労働者とその家族のうちの約8%が一日一人当たり1.9米ドル以下で生活をしています。

一日1.9米ドル当たりの生活がどのようなものになるか、あまり想像のつかない方はこちらのビル・ゲイツのブログ記事を参考にしてみてください。

1日2米ドル以下で暮らす人々にインタビューを行い、比較的裕福な国に住む私たちには想像できないような実際の貧困層の暮らしを鮮明に描き出しています。ビデオが非常に参考になります。

私たちが日ごろ送っている生活とはかけ離れたものになっているのではないでしょうか。


さらに、2018年時点で、世界人口のうちの55%が社会的保護の現金給付を一つも受けることができていません。

私たちには生活保護などの自治体・国による経済支援政策がありますが、経済支援制度が整備されていない、また制度があっても貧困層の方たちが利用できるように配慮がなされていないなどの理由で、最も助けを必要としている人々が最低限の社会的サービスにアクセスすることができていないのです。


ちなみに、国際貧困ラインを2011年の購買力平価(PPP)※に基づき、一日1.9米ドル以下と設定している世界銀行では、2030年までに極度の貧困層を世界全体で3%まで減らす、また、全ての途上国で所得下位40%の人々の所得拡大を促進するという2つの目標を掲げています。

現在はこの水準以下の生活を送る人々が極度の貧困層に当たると一般的に認識されています。

しかし、1日1.9米ドル以下の生活は1日に必要とされる栄養を摂取するための食品を購入することもできないため、実際のところ、そのラインが貧困ラインとして適切であるかの是非は感覚的な観点からも、賛否両論の声があるようです。

世界銀行が設定している国際貧困ラインは絶対的貧困の指標ですから、個人個人が感じる相対的貧困の指標とはかけ離れたものになっていても仕方のない部分もあるでしょう。


また、その国際貧困ラインが設定された2015年に世界銀行は極度の貧困層の人口が大幅に減少したと公的に発表しましたが、その貧困ラインの変更の影響もゼロではなさそうです。

これが意味するところは、貧困の改善度合いを計測する際に用いる指標や計測方法が異なれば、自ずと結果も異なり、指標のデータが示す結果と人々の現状が乖離してしまう現象が発生してしまう可能性があることです。

彼らが貧困から抜け出したと測る指標は、上記のような客観的な指標と、個々が自己申告で行う主観的な指標の両方が必要になると考えられます。


貧困に取り組む組織は、規模、場所、形態はさまざまですが、世界中に存在します。

貧困に取り組む中で問題として考えられている貧困の計測指標について、有名なものをいくつかご紹介したいと思います。


※補足:購買力平価(PPP)とは…特定のものやサービスを購入できる金額を国際間で比較する際に、異なる通貨間で同等の価値を持つと考え決められる交換比率です。為替レートには貿易の対象とならないものの値段はレートに反映されませんが、購買力平価には貿易の対象とならないものやサービスの値段も加味されます。


貧困の計測指標

貧困に取り組む組織は、取り組みの前後で同じ指標を用いてその効果を計測することが一般的だと考えられます。

比較的小規模な取り組みを行う場合であれば、税引前の収入、日々の生活費、貯蓄など、詳細に調査することができると考えられますが、規模が大きくなるほど対象のグループも多様化し、多くの指標で計測するようになると、算出の過程も複雑になります。


以下では代表的ないくつかの国際指標と、その指標が使用されるプロジェクトや文脈も合わせてご紹介したいと思います。


人間開発指標(Human Development Index: HDI)

人間開発指数(HDI)は統合的な指標として初期に(1990年以前)国際連合によって開発された、人間開発の尺度を示す指標です。

貧困の測定を行うことはもちろんですが、それ以上の経済社会的観点から人間の営みを評価します。


国連開発計画(UNDP)が発行主体の『人間開発報告書』(HDR: Human Development Report)によると、人間開発の目的は「人間が自らの意思に基づいて自分の人生の選択と機会の幅を拡大させること」であり、「健康で長生きすること」「知的欲求が満たされること」「一定水準の生活に必要な経済手段が確保できること」をはじめ、人間が生活を経済的、社会的に豊かにするための選択肢を増やしていくことが重要だとしています。

3つの柱を反映させる形で、具体的な計算式には「平均余命指数」「教育指数」「GDP指数」が含まれています。3つの指数の平均から算出される測定の値は0と1の間の数値で表され、1に近いほど評価が高いということになります。


人間開発指数(HDI)は、国レベルのマクロ指数が利用されており、国際間で各国の貧困状況や人間開発のレベルを比較する際のスタンダードな指標となっているため、個別のプロジェクトや組織のパフォーマンス測定で利用する際には、3つの観点を代替する指数の導入も必要となるかもしれません。

ちなみに、2020年版人間開発指数(HDI)のランキングでは、日本が19位(前年20位)、1位がノルウェー(前年1位)という結果でした。


より良い暮らし指標(OECD Better Life Index)

OECDが開発したより良い暮らし指標は、OECD加盟諸国の国民のウェルビーイングを多面的に評価する指標で、重要視したい項目によってウェルビーイングのスコアが変化し、項目ごとの比較、項目を複数用いた比較、または総合比較を可能にする指標です。

1961年創立以来、国民のウェルビーイングに力を注いできたOECDは、各国にアドバイスを行った経験や知見を活かし、測定項目として11つのトピックスを置いています。

一つ目の観点が物質的生活水準で、住宅、収入、仕事の3つをトピックスとして選択しています。もう一つの観点が生活の質(QOL)で、コミュニティ、教育、環境、ガバナンス、健康、生活満足度、安全、ワークライフバランスの8つをトピックスとして定義しています。


本来は、ポリシーメーカーがウェルビーイングを中心に据えた決定を行えるように支援するものですが、測定対象のウェルビーイングを構成する項目は網羅的で、重要なものに絞られた非常に有用性の高い指標です。

こちらのウェブサイトでは、特に重要視したい項目に加重をかけてインデックスを作成することが可能です。

項目ごとにどのような指数が利用され、どのようにスコアが算出されているかを参照すれば、ウェルビーイングの測定を行いたい組織やプロジェクトへの汎用可能性も高くなると考えられます。


剥奪指標(Deprivation)

個人(世帯)ベースに貧困を測定する指標として、所得ではなく、生活必需品の欠如の観点からその個人(世帯)の貧困度合いを評価しようとするものが剥奪アプローチです。

イギリスの学者であるタウンゼント(1979年)によって開発された手法で、生活に必要だと考えられる項目を抽出し、個人(世帯)ごとにその欠如項目の割合を算出し、一定の基準を下回る対象の個人(世帯)が相対的貧困と判断されます。

当時は、生活必需品の定義が曖昧で、世代間、時代、土地、文化などによって生活必需品の項目が変化するため、国際比較が難しく恣意的なものとなっていましたが、近年は改善され、EU、OECD、各国政府の貧困の測定・調査の際にも剥奪的アプローチの使用が増え、所得による貧困指標と並んで国際的も重要視されるようになっています。


剥奪指標の特徴は、個人(世帯)の貧困を直接的に評価しようとする点です。

上記で紹介した他の指標も所得以外の要素に着目した手法となっていますが、剥奪アプローチでは、生活必需品の欠如に焦点を当てることで、本人の意志や選好に依らず、強制的に手に入れることのできない項目が抽出されることとなり、物質的剥奪の観点から貧困グループの分布や差、スコアのレンジ、大まかなトレンドを捉えて相対的貧困にあたる層を特定することができます。

剥奪指標は、個人(世帯)の貧困度を評価する指標として、プロジェクトの組織規模、評価の対象範囲、グループの属性に違いがあっても利用しやすく、柔軟性の高い貧困指標の一つだと考えられます。


貧困が発生する主な原因

ある一定水準以下の貧困状態に陥ってしまう原因はさまざまです。

紛争、文化、自然災害などのコントロールできない外部要因による場合もあれば、病気などの一時的な都合で職から離れてしまった後に再就職が困難となり、非熟練労働者として安定した職に就けず、現金収入が絶たれてしまう場合などもあります。

そのため、原因を一つに絞ることはできませんが、貧困が連鎖してしまう要因の一つとして考えられる「教育」と、Covid-19などの「突発的な外部イベント」の2つについてご紹介します。


教育の欠如(貧困の再生産)

貧困の再生産とは、世代間で貧困が連鎖してしまう現象のことです。

貧困の家庭に生まれた子供は大人になっても貧困の状態を抜け出せる確率が低く、その子供、孫の世代にまで渡って貧困が連鎖してしまうことがしばしばあります。

貧困状態を抜け出せない子供や大人がいる環境は彼らにはどうしようもできない場合が多いので、コミュニティや国内外からの積極的な支援が必要と考えられます。


様々な原因の中でも、貧困の再生産に最も悪影響を及ぼしていると考えられるのが、教育の欠如です。

貧困家庭の両親は自らが教育を受けた経験がないことから教育の重要性が分からず、自分の子供たちに教育を十分に修了させないまま、働きに行かせるため、教育を受けることができない子供たちは能力や知識を吸収する機会を得られず、大人になっても同じ形態で働き続けます。

このように、教育が欠如したまま大人になってしまうと、子供たちの将来の選択肢の幅が狭まってしまいます。典型的な例として、低賃金の仕事、不安定な雇用、劣悪な労働環境の中で生活に必要な収入を得ている人も多くいます。

彼らもやがて子供たちを持つようになりますが、彼らも教育の重要性を理解していないため、子供たちに教育を受けさせることがなく、彼らも若いうちから働くようになり最終的に貧困が連鎖されています。


このような貧困の連鎖を断ち切るためには、教育の重要性を彼らに伝え、教育を受けることのできる機会を与え、世の中にある沢山の選択肢を知り、基本的な人権の下、彼らの望む良い人生を送ることができるよう支援していかなければなりません。


突発的な外部イベント(Covid-19など)

貧困に陥る他の原因として、制御不能な領域である大きな外部イベントによって突然、貧困状態になってしまう可能性があります。

近年では、気候変動や生物多様性の損失、水資源の枯渇などの深刻な環境問題が沢山ありますが、環境問題が与える影響は私たちの日常生活にまで及びます。


例えば、台風やハリケーンによって洪水や土砂崩れにあった地域があれば、そこに住む住民は住居を失い、避難生活になり、病気をしても必要な治療が受けられず、生活必需品を手に入れることができず、職にも付けなくなってしまうことも考えられます。

また、自然災害などのイベントが起こることを予め予想して保険に入っている世帯は、破壊的なイベントの際にも被害を最小限にとどめることができるかもしれませんが、該当する保険の存在を知らず、何も対策しないままそのような被害に合ってしまった世帯は、前者の世帯との間に経済的な格差が生まれる可能性もあります。


現在であれば、Covid-19が貧困世帯に影響を与える大きな外部イベントとなります。

経済的支援に加え、ヘルスケアサービスの体制や感染対策の環境を築くことが、今後の発展にとって重要な要因になると考えられます。

そして、貧困状態にある人々に対しては、それ以上の支援が必要になると考えられます。

彼らは元々、社会的支援を必要としていますから、貧困状態と言えない人々でも困難なこの状況下で、最も助けを必要としているのは彼らではないでしょうか。


トピックス ~貧困×ビジネス~

貧困の定義や見方は、上記の内容である程度、理解していただけたかと思います。

では、ビジネスの観点から貧困の問題を考えるとき、どのような観点で取り組みを進めると良いのでしょうか?

以下では、代表的な3つのトピックスについてご紹介します。


ジェンダーバイアスによる暴力やハラスメント

ジェンダーバイアスによる被害とは、身体的、心理的、性的、経済的危害など、様々な形態の被害を総称する名称で、性が原因となって不当な扱いを受けたり、不釣り合いな影響を受けたりすることを指します。

被害者となる対象は、特に女性や女の子に多く、3人に1人が何らかの形でジェンダーバイアスによる被害を受けたことがあると言われています。


通常、ジェンダーバイアスによる被害を受ける個人が身の回りにいても、当事者でない限り、その状況に気付きにくく、判断が難しいため、必要な対処が施されないまま、状況が悪化するケースも少なくありません。

彼女たちは声を上げようとしても、個人ではジェンダーバイアスによる被害なのか判断がつかない、置かれている状況をどのように説明すればよいか分からないこともあります。

また、ハラスメントや暴力に該当すると判断されても、適切な対処がなされないと、暴力やハラスメントの回数や被害が増大してしまう場合もあります。


システマティックな問題だからこそ、それらの問題には適切な対処が必要です。国際連合をはじめとして、様々な国際機関が組織向けのジェンダーバイアスに取り組むガイドラインを発行し支援しています。

より効果的な対策、解決を図っていくためには、企業側のジェンダーバイアスに対する見方やマインドセットも変える必要があります。

ジェンダーバイアスに対する取り組みを行うことで、利益の損失や訴訟リスクを低減できたり、レピュテーションリスクに晒される危険性も最小限にすることができます。

また、平等で公正な環境や体制が構築されることで、生産性の向上、積極的なコミットメント、エンゲージメントの向上、人の多様性にも貢献し、ビジネスチャンスも拡大します。

企業側はこのようなサイドエフェクトをしっかり認識することが重要です。


子供の労働、若年層のスキル向上

労働人口に該当する若者が世界中で増えている中、彼らのスキルや能力に見合った仕事や労働の機会が十分に市場に用意されていないという現状があります。

デジタルトランスフォーメーション(DX)、作業の自動化、技術の向上などにより、特にキャリア形成の初期段階である若者の職が不安定になっています。

昨日できていたことが明日には通用しなくなると言わんばかりに、世界情勢の変化は目覚ましく、既存の仕事がなくなる脅威と、新しい仕事が生まれる可能性の両方があります。

このような変化に対応できない若者は働く初期の段階で上手く能力やスキルを身に着けることができず、生涯、仕事に対する不安感を抱くこととなります。


多くの人にとって労働は主要な収入源となりますから、その職がなければ若者の貧困もこの先どんどん拡大することが考えられます。コロナによる影響もその一つです。

未来の仕事に焦点を合わせた若者の能力開発を行っていくためには、セクター横断的な取り組みが必要となります。

各業界の知見や経験を集結させて教育プログラムを用意し、プログラム終了後も若者の能力開発を支援できるようなメンタリング制度、ネットワーキング、セミナーを利用したインプット機会の提供などを行えると、若者がアントレプレナーシップを発揮し、彼らが新たな仕事を生み出すこともできます。

また、そのようなプログラムは若者だけでなく、女性や働く意思があるが能力や知識が足りず職に就けない人にとっても有効です。


そして、児童労働も大きな問題の一つです。

彼らは学校にいく時間を削って家業を手伝ったり、出稼ぎ労働者として労働に従事したりしますが、教育を受けることができなければ将来の仕事の選択肢が広がりません。

子供たちが学校に行けるような環境の整備、質の高い教育の提供、必要な物資の援助などが彼らには必要です。


サプライチェーンマネジメント

適切なサプライチェーンマネジメントを行うことで、企業は貧困問題に大きく貢献することができます。

一般的に経済的包摂とも言われますが、社会的脆弱な立場にある生産者や女性起業家をサプライチェーンに含める方策を講じれば、彼らの生活水準向上に寄与することができます。

サプライヤーとなることで、安定的な収入の確保、必要な社会的サービスの享受、技術や専門性の獲得などが実現され、生産者として事業を成長させる土台の形成にも繋がります。


しかし、企業が現地コミュニティの文化・文脈を理解していない、あるいはサプライヤー選択に関する方針が彼らを含められるように設計されていないなどの理由で、そのような社会的弱者グループがサプライチェーンから除外されてしまっていることがよくあります。

よって、企業は現在のサプライヤーとの関係を経済的・環境的・社会的に評価し、バリューチェーン、ビジネスモデルなどの観点から、リスクとなりうる要因があれば、企業がイニシアチブを起こし、改善に取り組む必要があります。

企業のサステナビリティ推進が強く求められるようになっている現在、企業がサプライヤーに対して責任ある行動を取ることでレピュテーションの向上にも大きく貢献します。


ケーススタディ

貧困問題に取り組む実際の企業の事例を見ていきます。

ケーススタディでは、貧困層にアプローチするモデル、対象となる貧困層の特徴、企業が保有するリソースの活かし方などの観点から企業の取り組みを紹介したいと思います。


Burberry

都市のセンター街で見かける高級ファッションブランドのバーバリーは、極度の貧困にあるアフガニスタンのカシミヤ生産者である遊牧民の生活やカシミヤの価値を向上させるための5年プログラムを、2017年度に開始しました。

バーバリー基金OxfarmPUR Projectの3者が協働して開発、提供されているプログラムで、現地の生産者の生活水準を改善するために、主に3段階に分けて進められています。


まず初めに、カシミヤ生産者がカシミヤを収穫、加工、販売ができるような環境を構築、強化します。

プログラムでは400匹の山羊を収容する新しい山羊飼育施設を現地コミュニティに提供しており、コミュニティでのカシミヤのサプライチェーン構築、カシミア産業の発展に寄与しています。

施設にて収穫、加工されたカシミヤは販売されることになりますが、カシミヤ産業の未発達およびサプライチェーンの欠如から、カシミヤの価格が下がり、生産者の収入が低くなる傾向にあります。

よって、カシミヤの生産体制を改善すると同時に、国際市場でも競争力のある高品質なカシミヤを販売する必要があります。

また、気候変動との関係が深いカシミヤ生産は、牧草地のマネジメント能力を高めることで過放牧や土地の砂漠化を未然に防ぐことができます。

遊牧民がカシミヤ生産のための牧草地マネジメントに活かせそうなリソースの提供と、カシミヤ生産が環境に与える影響と環境から受ける影響に関する情報のインプットも行っています。


つづいて、飼育、エサやり、動物の健康に関する家畜マネジメント能力を向上させることで、カシミヤの品質に良い影響をもたらします。

低価格で販売されるカシミヤに価値を見出すことができていない遊牧民は、質より量を重視する傾向にあり、本来は価値の高いカシミヤを劣悪な環境で生産している場合があります。

生産者のカシミヤの価値に対する認知、高価格での販売を可能にする品質の確保が必要となります。

現状の理由として、家畜マネジメントに関する限られた知識しか持っていないこと、インプットを受ける機会がなくカシミヤの生産に関するノウハウに乏しいことなどが考えられるので、プログラムではカシミヤの生産に役立つ情報をコミュニティ全体で共有するために、セミナーの開催、現地の国民放送での伝達を行っています。

これまでに、延べ数千人の人々にリソース提供を行ってきています。


最後に、アフガニスタンのポリシーメーカーとの協働です。

カシミヤ産業の基盤を築くためには、国が規制や制度を整備し、円滑なカシミヤの生産と取引を推し進める必要があります。

現地のポリシーメーカーに対してバーバリーは法や制度の提案を行い、支援を行っています。

さらに、バーバリーのアフガニスタンでのプログラム内容を同業他社にも公開し、その取り組みへの内外のリソースの取り込み、生産者が質の良いカシミヤを販売できるような技術の提供も期待しています。


バーバリーの取り組みはアフガニスタンのカシミヤ生産者である遊牧民の生活水準を向上させ、高級ファッション業界に必要不可欠な原材料であるカシミヤの調達を安定化させることにもなります。


まとめ

ビジネスは貧困問題に大きく貢献できます。

貧困問題の一部に貢献できる若者のスキル向上、サプライヤー支援、ジェンダーバイアスのない企業文化の形成などは、最終的に企業価値にも繋がるとビジネスリーダーは認識し、具体的な活動に移す企業が最近は増えています。

国際貧困ラインにあたる貧困層は国内では圧倒的に少ないですが、バリューチェーンをグローバルに展開し、製品やサービスを国際的に展開する企業にとって、BOPビジネスのような貧困層をターゲットとする新しいビジネスモデルの構想や、サプライチェーンマネジメントによるサプライヤー支援は、決して無視できない企業としての重要課題の一つであり、大きなビジネスチャンスとなります。


そして、貧困問題に貢献する活動を行う企業はその具体的なパフォーマンスを測定し、管理することで、より効果的な方法を模索できます。

測定したパフォーマンスは内外で公開することも可能で、企業の透明性を高め、コミュニケーションの円滑化を図ることもできます。

弊社では、企業のインパクトマネジメントサービスを支援するサービスを提供しています。

ご興味のある方はこちらページもご参照ください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


キャスレーホールディングス株式会社

キャスレーホールディングス株式会社のコーポレートサイトです。 当社は、経済的価値と社会的価値の同時創出(CSV:Creating Shared Value)を、最先端のICTで実行する企業の持株会社です。 システム開発、画像解析(AI、深層学習)、アグリテック、フィンテック、ハードウェア(FPGA、GPU)などの技術を保有する会社へのインキュベーション・統括をしています。会社概要・理念・研究など。