Circular economy

サーキュラーエコノミーは新しいビジネスモデルを生み出し、限られた資源の有効活用、発生するごみの削減、新しい仕事の創出などを実現します。


地球上の資源の中でも、特に化石燃料や鉱物は一度抽出されると元に戻るまでに何千年もの時間を要すため、現在の製品モデルである「取って、作って、使って、捨てる」のままでは、貴重な資源がどんどん失われていくことになります。

また、それらは正しく処理をしないと有害な物質を発生させてしまいます。

サーキュラーモデルの利用によって、貴重な資源を可能な形で繰り返し利用することができ、さらに人体・環境への被害を最小限に抑えることができます。


「取って、作って、使って、捨てる」生活が続くと、必然的にごみの量が増大します。

ごみ問題については以前の記事でも扱いましたが、サーキュラーエコノミーでは、普通ならごみと考えられるものを新たな資源と考えるパラダイムシフトが必要になります。

といっても、ごみならすべて資源になれるということではなく、使われたあとの残余価値が重要になります。

サーキュラーモデルには資源を繰り返し使用する区分としてアップサイクルやダウンサイクルなどがあり、残余価値が次の段階でどのように利用できるかを決める一つの要因となります。


資源を繰り返し活用することは、企業の財務にも良い影響を与えます。

化石燃料や鉱物は供給量や値段が不安定になりがちで、それらに頼って事業を行う企業にとっては大きなリスクの要因になりかねません。

サーキュラーエコノミーを取り入れ、資源を繰り返し利用することで、原材料の不安定さに左右されないメリットがあります。

また、修理、修繕、改装などの新たな作業工程がバリューチェーン上に繋がってくるので、新しい仕事が生まれることにもなります。


サーキュラーエコノミーを実践する前に、まずはサーキュラーエコノミーを理解しましょう。

本記事では、今更聞けない「サーキュラーエコノミー」の基礎をまとめています。


本記事では以下のことが分かります。

  • サーキュラーエコノミーのいろは
  • 業界別サーキュラーエコノミー
  • サーキュラーエコノミーの実践例



サーキュラーエコノミーの原則

サーキュラーエコノミーは、製品のデザイン段階から始まります。

製品や原材料を大切に扱うべき貴重な資源と認識し、初めからごみの発生が最小限となるようなデザインにすることで、使ったら捨てるというループを断ち切ります。

サーキュラーエコノミーは資源を繰り返し利用していくモデルですが、二つの別のサイクルがあります。「生物由来物質」と「技術的物質」の二つです。


木材や自然繊維などの生物由来物質は汚染や毒素に触れない形で製品に利用されることで、製品が命を終える段階で環境に戻すことができます。

建造物の中で使われた木材の梁は非構造的でない役割を持つ部分に再利用され、さらにコルクボードや木の机などの小さいものに利用されていきます。

完全に役目を終えた木材は、バイオガスを発生する源となります。


技術的物質は鉱物やプラスチックなどのことで、できるだけその物質を長く保持できる製品に利用され、技術的サイクルの中で保持される必要があります。(環境に戻してはいけないということです)

必要に応じてアップグレードやリエンジニアリングが行えるように、技術的物質を利用する製品は耐久性と順応性を持っていなければなりません。

さらに、製品の使用段階が終了するときに物質を製品から取り出してリサイクルするため、解体できるようにしておきます。取り出された物質は新たな形で利用され、できるだけ長くサイクルの中で保持されます。


製品開発、デザインの段階では、この二つの物質の違いを意識して、利用する物質、組み立て、構成、使用期間などを設計していきます。

生物由来物質を多く利用し、技術的物質は取り出し可能な状態にしておくことが基本方針です。


サーキュラービジネスでは、消費者の製品所有から消費者のサービス使用(アクセス)に焦点を移します。

従来、購入された製品は消費者の自己責任の下で管理され、修理、改修、再利用、廃棄まで適切に行う必要がありますが、消費者にそのようなインセンティブはなく、一つの製品を長く使うよりも新しいものを購入した方が安いケースもしばしばです。

消費者の真のニーズに応えるサービスの提供で、まだ利用できる物質の不用意な廃棄や、不適切な処理方法によって発生した有害物質の環境への漏出を防ぐことができます。



類似したコンセプトを共有する用語

サーキュラーエコノミーの根底に「普通ならごみとなるものを新たな資源として扱う」という考え方がありますが、同じようなコンセプトを共有する他の用語もあります。

すべてサーキュラーエコノミーの考えに倣っている点は共通していますが、違いも意識して見ていきましょう。


Cradle to Cradle

サーキュラーエコノミーに一番近い考え方が、「Cradle to Cradle」(ゆりかごからゆりかごへ)です。(以下、C2C)

C2Cは、単なる環境負荷の軽減ではなく環境に100%良い取り組みの実践を推奨しています。リサイクル素材を利用する製品の開発を行ったが、実際にはそのリサイクル製品を利用するためには別の化学物質が必要で、リサイクル素材を利用していても負のインパクトを与える可能性が上乗せされていた場合、C2Cではありません。

目的自体は環境負荷の軽減、素材の再利用にありますが、そのためにさらに化学物質を使ってしまえば本末転倒です。環境に100%良いものではありませんよね。

「環境効率」ではなく「環境効果」を大切にするべきで、効率性を求めて良いインパクトによる全体の効果が薄まってしまうなら、別の方法を模索しなければなりません。


有害物質の排出に対する環境規制の存在自体が、製品デザインの欠陥を意味しているとも訴えています。

環境に有害な物質を製品デザインの初めの段階から省いていれば、環境に負のインパクトを与える物質を漏出することもありません。

利用する物質が生物由来のものだけになれば、製品の製造段階で排出される大気、排水、廃棄物も環境に害を与えないものとなり、仮に製品が利用されたあとに環境に戻されてもエコシステムの中に溶け込んでいきます。

デザインの改善によって、製品のライフサイクルアセスメントのパフォーマンスは格段に上昇します。


C2Cはサーキュラービジネスの究極的な形で、生物由来物質と技術的物質のうち、デザインの段階でほとんどの技術的物質を排除し、製品を生物由来物質のみで作り出そうとします。

生物由来物質の代替オプションがまだ少ない業界・業種にとっては少し難しいかもしれません。


Biomimicry

生命体が持続可能な方法でデザインの課題を克服する仕組みを模倣して、活かそうとする考え方が「バイオミミクリー」です。

サーキュラーエコノミーも、一つの過程で生まれたごみが他の生命体の食べ物になり、毒性の物質さえも中和させる生命体のシステムからインスピレーションを得たものです。


同じような言葉に、Biomorphism(有機的デザイン)、Bioutilization(生物由来物質の利用)があります。

前者は開発している製品と外見が類似した生命体を模倣し、外見の美しさやデザインを改善するものです。

人間は自然から恩恵を受けやすいので、リラックス効果や景観との調和など、様々なメリットが考えられますが、あくまで外見的な模倣になります。

後者は、木材、自然繊維などの生物由来の物質を製品の原材料として利用することです。

バイオテクノロジーの活用はとても期待できますが、原材料を代替するのであって、デザイン自体にフォーカスしたものではありません。


バイオミミクリーは、生物の機能的構造や働きに倣おうとするもので、外的特徴やそれ自体の利用を意味するものではありません。

エコシステムの中で、あらゆる生物が誕生と絶滅を繰り返してきましたが、環境に柔軟に対応しながら生き抜いていく知恵を、気候変動などのあらゆるサステナビリティ問題に直面する私たちは生命体から学ぶことができるかもしれません。

よって、バイオミミクリーは自然のシステムに倣おうとするフレームワークのようなものです。


Industrial Symbiosis

産業共生は、産業間のマテリアル移動がどのように行われているか考察し、一つの産業から発生したごみを他の産業の原材料として利用できる機会を模索する研究です。


陶器産業から発生したセラミックごみは、建設業者の骨材(コンクリートやアスファルト混合物を作る際に用いられる砂利や砂の総称)に利用できます。

両産業にとってコスト削減だけでなく、発生する二酸化炭素とごみの発生も減らすことができます。

産業間のマテリアル移動を可能にするためには、産業ごとに使用されている物質と場所、状態を把握できるプラットフォームのようなものが必要となるでしょう。


世界25か国以上で産業共生のパイロットプロジェクトがいくつか実行されています。

関心のある方は、こちらもご参照ください。



ケーススタディ

ここまで、サーキュラーエコノミーの概要について説明してきました。

以下では、実際にサーキュラーエコノミーを実践する企業の事例を見ていきます。


Phillips

サーキュラーエコノミーをビジネスで実践するフィリップスは、多くの方がサーキュラービジネスと聞いて思い浮かぶ企業の一つだと思います。

オランダに本社をおくフィリップスは、ヘルスケアサービス、照明、消費者のライフスタイルを中心とした商品展開を行っており、製造から販売までサステナビリティ、サーキュラーエコノミーの考え方を反映させています。

フィリップスは製品に自社独自のエコデザインを採用しており、一定水準のエコパフォーマンスをクリアする、あるいは第三者機関から認証されるエコラベルの授与によって、消費者への商品提供を通じた、エネルギーの効率化、エコパッケージング、有害な物質の排除、ごみの量の削減、サーキュラーエコノミーへの寄与を実現しています。


サーキュラーモデルを取り入れる製品やサービスには、主に4つのカテゴリーがあります。

一つ目のサービスが、製品自体ではなく、製品により提供されるサービスもしくはアウトカムの提供を目的としたサービスです。

例えば、照明をこの原理で提供する”Pay per lux”というプログラムがあります。

本来、ユーザーが光を必要とする場所に照明を取り付けます。この場合、ユーザーが照明の購入、取付、取替のすべてを行うことになります。

プログラムでは、これまでユーザーが行っていた取付、修繕、アップグレードなどの照明に関わるメンテナンス一切をすべてフィリップスで請け負います。

ここで提供されるのは、「製品」ではなく、「サービス」です。


二つ目のサービスが、保証付き中古品の利用です。

高価な原材料(ダイヤモンドなど)を利用する製品は価格が高騰しますが、使用済み製品から改修した希少な部位をきれいに改修し、アップグレードして提供することにより、比較的リーズナブルな価格で新品に近い状態の製品を提供することができます。

もし不具合が発生しても保証が付いているので、安心して予算内で製品の利用を検討することができます。

中古品と言われると、新品よりグレードが落ちているという印象がありますが、フィリップで提供される製品は、使われる原材料が再利用されているだけで、機能や見た目は新品同然です。


三つ目のサービスが、現地やリモートでのアップグレードです。

製品が使われるうちに消耗され、不具合が発生すると、メンテナンスの作業が必要となります。また、システムを利用していれば、常に新しいバージョンにアップグレードして、ユーさーのエクスペリエンスを高めることが求められます。

フィリップスはSmatPathというシステムアップグレードの方法を使って、既存のPhillipsシステムを改良しキャパシティを増加させるリモートでのアップグレードと、サービスとして提供している製品を改善する現場でのアップグレードを提供しています。

製品のうち、主要なコンポーネントの改善を可能にすることで新品に近い状態を保ち、製品自体を長く利用することが可能になります。


四つ目のサービスが、リサイクルされた原材料の利用です。

リサイクル素材の利用はサーキュラービジネスで最も重要となる方法です。

リサイクル素材を利用するときに考えられる障害として、従来の製品と同じ機能を保てるか、素材から異臭が発生しないか、耐久性があるか、などが挙げられます。

よって、リサイクル素材を利用するには製造に関わるエンジニアと協力しながら、原因を突き止め、新たな解決策を模索する必要があります。

一度、リサイクル素材を使用した製品開発に成功すれば、工程を横展開していくことも可能です。

リサイクル素材は基本的に低価格で手に入るため、製品を低価格で提供でき、且つビジネスの利益も増大します。


以上のように、ビジネスのバリューチェーンにサーキュラーエコノミーの考え方を取り入れ、バリューチェーンを”close”しようとしています。

使い切ってもう他に使い道がなくなった場合に、焼却あるいは埋め立てが選択肢として出てきます。

ビジネスのあり方を根底から覆す良い事例だと考えられます。



まとめ

サーキュラーエコノミーを推進する主体は企業だけでなく、政府も同じです。

EUでサーキュラーエコミーアクションプランが策定されているように、今後は規制や優遇制度を含めた環境整備が進んでいくと思われます。

企業はそういった環境の変化に素早くキャッチアップし、ビジネスモデルを変化させる柔軟さを求められます。


サーキュラーエコノミーの考えは、消費者行動の変化も含みます。

製品は買って、使って、捨てるものというマインドから、ケアし、できるだけ長く利用し、もう使い道がなくなったときに捨てることを考えるマインドに変わっていきます。

その過程で、製品の利用を通じたカスタマー教育も重要となるでしょう。


サステナブルなビジネスを実現する上で、サーキュラーモデルは大きな役割を果たします。

資源を繰り返し利用するサーキュラーエコノミーに基づいた行動を今から起こすことで、5年後、10年後に得られる結果も大きく変わってくるでしょう。

キャスレーホールディングス株式会社

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