EHS&S (Environment, Health, Safety & Sustainability)
企業が環境に与えるネガティブインパクトに対する疑念が高まりだした1990年代、多くの工場や生産現場で、コミュニティの環境破壊が行われていることが明るみになりました。
コミュニティに住む市民は企業に改善を求める声明を出し、工場からの排出物が直接的に被害を与えているとNGOが自然資本の保護を訴え、特にコミュニティでの操業ライセンスを脅かすような出来事が多く見られました。
また、生産の現場で実際に作業を行う従業員の安全や健康を守ることが、人権擁護の観点からも取りざたされるようになり、工場での安全な意識や慣行を醸成するための企業の取り組みが年々進んでいます。
コロナ禍であってもオンライン化できない仕事に従事する従業員の健康・安全を守ることは企業の急務であり、また新しい働き方やテクノロジーの導入にも繋がる契機ともなっています。
企業が発展していく上で、価値を生み出す源である人的資源のマネジメントは必要不可欠の領域です。また、自然資本がバリューチェーン上で重要な役割を担うビジネスモデルを持つ企業であればなおさら、操業地域での環境保護は企業責任でもあり、長期的な価値を築くための重要な要素であると考えられます。
EHS&Sは、業界や業種によってサステナビリティの重要課題と判断されることがない場合もありますが、企業が与える環境への影響、人材マネジメント、安全の意識醸成の各テーマは企業がサステナビリティに取り組むうえで、何れかのエリアに必ず間接的に影響を及ぼすものと考えられます。
本記事では、そのような企業戦略や方針としてのEHS&S(Environment, Healthm Safety & Sustainability)について執筆していきます。
EHS&Sとは?
EHSとは、Environment(環境)、Health(健康)、Safety(安全)の頭文字を取った言葉で、一般的に従業員が危険な労働環境で働いたり、事故が発生するような危険なオペレーションが行われていないか、あるいは企業が環境に悪質な被害を及ぼしていないかをチェックするための様々な対策や方針、戦略を総称するものです。
現場のEHSに関して、国際的なスタンダードを提供する専門組織や、各要素を高めるための技術やソリューションを提供する民間企業、さらにISOなどの認証制度を実施する団体など、EHSの言葉は従来から広く知られ、EHSを改善するための取り組みが行われています。
そのEHSにS(Sustainability(持続可能性)、もしくはSecurity(安全)。企業によって定義は様々)が付いた概念をEHS&Sと呼び、こちらの呼び名が現在ではスタンダードとなってきています。
HESS、SSHEなど、順序が異なる場合もありますが、意味するものは同じです。
企業のEHS&Sがどれほどの水準にあるかを判断する指標として、例えば以下のような基準があります。
- 改善努力に対するマネジメント・リーダー層からのサポート
- プロセスでの従業員の関与度合い
- 環境・健康・安全が懸念される課題に対する革新的なソリューション
- 産業平均と比較した事故・疾病率
- 総合的なトレーニングプログラム
以上の項目は、EHS&Sを個別に見る内容にはなっていませんが、何れの基準も最低限必要と考えられ、プログラムやマニュアルを用意するだけでなく、定期的な改善・監督、現場での実行・改変、継続的なトレーニングなどを行う必要があります。
EHS&Sに対する取り組みを加速させる企業では、専属のポジションや部署を設置し、具体的なゴールを設定し進捗を測っていくところもあります。
努力のレベルに違いはあっても、EHS&Sは従業員や環境の健康を保つだけでなく、企業が継続的で健全なオペレーションを行っていくための価値の根源になると考えられます。
企業がEHS&Hを適切に実行できない場合のコスト
では、実際に企業がEHS&Sを適切に実行できないと、どのような問題が発生し、どのようなコストが生まれてしまうのでしょうか?以下では、いくつかの事例を挙げています。
コストの原因となる事例は、工場や作業現場での事故や職業病などの疾病による作業人員の欠損です。特に、その人員が特殊な技術を持つ人材や流れ作業の重要なポジションを担当する人員であった場合、その損失は大きくなります。
実際に事故が発生した場合に付随するコストを、直接的なコストと間接的なコストに分類しています。
直接的コスト
- 医療費
従業員が負傷した場合、法令や規定に従って雇用者は必要な医療費を提供します。現場でのヘルスケアサービスが必要となる場合もあり、これも企業が負担します。ただし、一般的に雇用者が補償する場合でも従業員が負担しなければならないケースもあります。
- 賃金補償
従業員が負傷した場合、回復のために仕事を離れます。その休職中の賃金を企業は補償します。さらに、その従業員の欠員によって発生する損害も負担することになります。
- 負傷した労働者との和解
事故の状況、疾病の度合いにもよりますが、負傷者に障害が残る場合、和解のためのコストが発生します。保障の適用、法的手続きなど、ケース自体をマネジメントする別のコストも発生します。
間接的コスト
- 採用、トレーニング
ポジションを穴埋めするための新しい人材の採用、さらに人材をそのポジションを卒なくこなせるようにするための教育、トレーニング費用が別途発生します。空いたポジションに必要とされる技量によって、そのコストの大きさも変動します。
- 残業、生産性の低下
穴埋めできる人員が生まれるまで、そのポジションは一時的に誰かによって穴埋めされる必要があります。一時的な穴埋めや、慣れない作業による残業や生産プロセス全体の生産性が低下することになります。
- 従業員のエンゲージメントの低下
事故や職業病になる可能性が高い職場で従業員は働きたいと感じません。身体的・心理的にサポートされ、必要な保障が用意され、安全な文化が根づく環境の方が、エンゲージメントが高まります。また、一般的に事故などが発生すると、企業のレピュテーションにも影響を与えます。
以上は例ですが、他にも事故の詳細な調査のための人員派遣や、報告書作成など、他の間接的なコストも考えられます。
現場の人間ほど作業への理解が高いため、事故や疾病によるコストの大きさを判断することができますが、現場の責任者と上層の意思決定者とのコミュニケーションが取れていないと、そのようなコストを認知することができず、改善の必要性や危険な慣行を見過ごし、EHS&Sへの取り組みを適切に行えないことが想定されます。
前節で挙げた通り、マネジメント層の関与と従業員のエンゲージメントの双方向によるアプローチが必要であることが分かります。
主要なテーマ
企業がEHS&Sに取り組むうえで、取り上げられる主要なテーマを幾つかご紹介します。
もちろん、取り組み対象はこれらに限定されている訳ではありませんが、課題を解決するためには協力的で包括的なアプローチが必要なものと考えられます。
健康で安全な職場環境づくり(コロナ対策含む)
安全な職場づくりをする上で、従業員の健康と安全を守ることは大前提ですが、具体的にはその健康や安全を脅かす危険の元を調査や従業員へのインタビューなどを通じて事前に特定する必要があります。
原因となる要素を特定することで具体的な対策を立て実行に移すことができるからです。具体的には、人体に被害を及ぼす危険物質、操縦に危険が伴う設備、生産活動に伴う技術的問題などが想定されます。
健康で安全な職場環境は、危険を察知するシステムやテクノロジーによる代替、自動化などで実現される部分もありますが、最も大事な要因となるのが、EHS&Sを重んじる文化を形成することです。
実際に作業するのは人ですから、彼らの中でのEHS&Sに対する意識の高さがなければ、どれだけ優れた制度やシステムが用意されていても、事故率や疾病率を下げることには繋がりません。
グローバルに事業を展開し、生産地点を国内外に持つ企業の場合は、サプライヤーやビジネスパートナーとの関係も多岐に渡っています。
EHS&Sを重要課題と考える先進企業は、自社のオペレーション現場だけでなく、ビジネス上で関わりを持つサプライヤー、パートナーに対してもEHS&Sに対する適切な対策を取るようにサポートしています。
さらに、現在のコロナ禍において、従業員の安全と健康への企業の取り組みは注目を集めています。ESGのSに該当する部分です。
サプライヤーの生産・支払期限の猶予、ヘルスケアサービス・アイテムの提供など、自社の従業員あるいはパートナー企業と協力して対策できることが沢山あります。
オンライン化の難しい仕事に従事する従業員はもちろんのこと、ポストコロナでの働き方も、さらに従業員の健康と安全が守られるようなものでなくてはなりません。
心理的/身体的リスクへの対処方法
働く人々に共通するリスクとして、心理的リスクと身体的リスクがあります。
身体的リスクとは、生産現場において事故や予想しない出来事が発生し、疾病、障害、死亡など労働者の身体的な健康に影響を与えるリスクのことです。
心理的リスクに比べて、比較的被害が見えやすく、また仕事や生活に直ぐに影響を与えてしまう急性的な側面もあり、被害を最小限に抑えるための環境整備がリスクを防ぐ重要な要因となります。
また、生産現場だけでなく、オフィスワーカーの場合でも通勤や営業活動、職場環境などによって、物理的被害を受けるケースも考えられます。
一方、心理的リスクの方は慢性的に溜め込み、対処が手遅れとなるような状態で見つけられてしまうこともあるため、未然に防ぐ組織的な対策が必要になります。
個人の心理的リスクは個人の健康だけでなく、仕事、組織、ひいては国の経済にまで大きな影響を与えてしまう可能性があります。
心理的問題はしばしば個人の問題として見られがちですが、多くの場合、組織的な問題である場合が多いです。
例えば、以下のようなリスクです。
- 自分の能力を超過した仕事量
- 一貫性のない要求と役割の不明瞭さ
- 労働者に影響を与える意思決定への不参加
- 仕事のやり方に対する裁量の低さ
- 管理不足の組織的変更による仕事の不安定化
心理的リスクは個人の問題であるという前提に立ってしまうと、基本的に間違ったアプローチを取ってしまいます。
心理的リスク、精神的リスク共に、不十分な仕事設計、組織、管理、および不十分な仕事の社会的状況から生じ、仕事関連のストレス、燃え尽き症候群、うつ病などの否定的な心理的、身体的結果をもたらす可能性を秘めています。
コミュニティへの影響
最後はコミュニティに与える環境的な影響です。
企業が環境的ネガティブインパクトを与えている場合、それは生産サイトから発生している場合がほとんどなので、環境的インパクトの低減は生産現場での環境的取り組みと言っても過言ではありません。
コミュニティに与える影響は主に自然資本に関係しています。
工場の排水・取水、大気の排出、廃棄物・危険物質の漏洩などが具体的に避けなければならない最低限の環境保全です。これらのインパクトを最小限にすることで、気候変動や生物多様性への影響を最小限にすることができます。
さらに、近年の動向では、ただ環境を保全するだけでなく、自然資本を再生する取り組みが進んでいます。つまり、水・エネルギー利用の効率性を上げるだけでなく、廃棄物から発生するエネルギーの利用や生分解性の原材料の利用など、自然の摂理に従ったサーキュラーモデルを採用する企業が増えています。
また、サーキュラーモデルは新たなテクノロジーやイノベーションが必要になる機会が多く、新たなビジネス機会になるとも考えられています。
そして、地域の住民とのエンゲージメントも必要不可欠です。
企業がその場所で生産活動を行うことができる理由はその土地の資源のお陰ですから、コミュニティのことを良く理解する住民の声に耳を傾け、自社の利益だけでなく地域の利益にも繋がるような企業活動を行わなければなりません。
地域の住民とのダイアローグを行い、事前に理解と許可を得ることが企業の円滑なオペレーションの遂行、ライセンスの保持に繋がります。抽出事業やインフラ事業において、このエンゲージメントは訴訟リスクを防ぐことにも繋がります。
EHS&Sの重要な取り組み
EHS&Sが企業にとって重要なことはお分かりいただけたかと思います。
では、企業がEHS&Sに取り組む際に採用する主要なアプローチ方法はあるのでしょうか?
企業のユニークで効果のある方策は産業でのスタンダードとなり、業界水準の底上げにも繋がります。
先進的な企業の取り組み内容を、今回は3つの大枠にまとめて紹介しています。
トレーニングの提供(危険管理能力の向上)
EHS&Sを重要視する企業にとって、従業員の危機管理能力を向上させるためのトレーニングは欠かせません。
トレーニング内容は、製品・サービスの種類、技術の成熟レベル、使用する設備などによって異なりますが、非正規・正規に関わらず、従業員の安全意識を高めるためのトレーニングがプログラムされています。
工場内にトレーニング施設を設置する企業、定期的に基礎的なトレーニングを受講することを必須とする企業、作業を開始する前に一週間のトレーニング期間を設ける企業もあり、従業員の安全と健康を守るためのトレーニングは最も有効的な方法だと考えられます。
また、座学やトレーニングのような受け身型の施策だけでなく、従業員が作業を行う中で感じる危機意識から改善が必要と思われる危険要素を抽出し、ボトムアップ形式で安全の取り組みを発案する場合もあります。
実際の現場で適用できる安全対策が必要ですから、常にボトムアップとトップダウンを意識した仕組み作りが必要だと考えられます。
ロールモデリング&オペレーションへの組み込み(安全意識の醸成)
素晴らしいEHS&S方針や戦略を持っていても、実際に発生する事故率、致死率が下がらなければ意味がありません。
安全や健康を意識することは一度限りのことではなく、作業中は常に意識しなければなりません。
従業員の日々の安全意識を醸成するいくつかの方法として、ロールモデリングやオペレーションへの組み込みなどがあります。
ロールモデリングは、現場のリーダー自身が安全な行為を積極的に行いリーダーシップを取ることで現場の他の作業員にも安全意識を根づかせ、職場での安全な職場文化を築くことです。
リーダーから模範的な行動を見せていくことで、自然と周りの意識も変わり、行動も改善されていきます。企業はそのようなリーダーシップを現場で発揮できる人材を育成する必要があります。
オペレーションへの組み込みは、朝礼の場を利用した現状の確認(実際に起きている事故やけがの有無)、見える位置に設置される標識、現場での改善策に関する話し合いなどがあります。
安全や健康について自然に考えることができる機会をオペレーションに組み込むことによって、さらに意識を高め、作業に取り組むことが出来るようになります。
また、日々の改善によって生まれた従業員の安全や健康を守る成功事例は、他の生産場所にも適用され社内で良いインパクトを連鎖させることも可能です。
テクノロジーの導入(危険な作業の代替、自動チェックシステム)
EHS&Sにおいても、テクノロジーの利用が注目されています。
例えば、サプライチェーンのレジリエンス向上、自社およびサプライヤーのリスクマネジメントにおいて、テクノロジーを活用することができます。
コロナによってサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになったことで、予測不能な自体が起きても柔軟に対応でき、システム自体の機能は失わない体制作りが求められています。
EHS&Sを評価する指標、KPI
企業が問題に取り組む際には、取り組みの有効性および進捗を測るために、指標を用いることが考えられます。
自社のEHS&Sの取り組みがどれほど進んでいるかを確認する指標としては、以下のようなものがあります。
- 怪我の種類と原因による応急処置の実施
- EHS検査、監査
- 危険性が発見された場所の調査
- 実際の事故発生数、致死率、ニアミス
- トレーニング時間
- トレーニング参加者数
- 従業員のエンゲージメントの高さ
多くの企業では、トレーニング時間、トレーニング参加者数、事故発生数、死亡事故率などを指標としても用いているところが多いです。
先進的な企業では、事故発生件数を現場のリーダーの評価に組み込むところもあります。
従業員の健康と安全を必ずしも金銭的インセンティブに繋げる必要はありませんが、従業員のエンゲージメントを高めるためのインセンティブや仕組みがあっても良いかもしれません。
ケーススタディ
Mondi plc (Paper & Packaging)
製紙事業と包装事業において世界的なリーディングカンパニーであるMondi plc(以下、モンディ)ですが、サステナビリティでも先進的な取り組みを行っています。
最近では、同社のサステナビリティ報告書による開示レベルの高さが認められ、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)からレポーティングのトップパフォーマーに選ばれています。
モンディのサステナビリティアプローチは、2016年~2020年を対象に10つの行動分野が特定された”Growing Responsibly Model”と、2020年~2030年を対象に「Climate(気候)」「Circular(サーキュラー)」「People(人)」の3つの領域にまとめられた”MAP 2030”に大別されます。
過去の反省点、良い点を次の戦略に活かし、新たなロードマップを策定しているため、行動に一貫性が見られ、取り組んできた内容も非常に分かりやすいものとなっています。
今回は、Growing Responsibility Modelの中の「請負業者と従業員の健康と安全」、MAP2030の「People(人)」に含まれている、安全と健康への取り組みについてご紹介します。
まず特筆すべき点は、安全への意識の高さです。事業内容的に、作業に伴うリスクの高さをしっかり認識しており、現場の作業員、リーダーとのエンゲージメントを定期的に行い、話し合わなければならない重要課題について共通認識を取り、現場での施策に活かしています。
現場の作業員の安全への意識、会社の取り組みへのエンゲージメントを高めるための各イニシアチブも見られます。
例えば、”a 24-hour safety mindset”というキャンペーンには、CEO自らが出演するビデオでの普及によって、作業現場だけでなく、家庭でも私生活でも常に安全の意識を根づかせることで、意識的な安全対策が無意識的な安全対策の実行に繋げようとする狙いがあります。
また、心理的なリスク要因を「現場」「頭の中」「集団」の3つと定義し、その一つ一つの要素を意識できるような象徴的なアイコンを従業員、職場で共有し、常に安全の意識を生むようにしています。
デジタルを取り入れた取り組みも進んでいます。
バーチャルな空間での実践を通じた実際の現場での迅速な判断の強化のために、”HEADS UP!”というゲームを開発し、従業員に提供しています。
ゲーム内では、安全の基本的なルール、インシデントが起きた際の対処法など、実際の作業現場でも行われている慣習が取り入れられています。
さらに、モンディの安全に対する管理体制も堅固なものとなっています。
現場のリスク特定、事故の調査体制が確立されており、いつどこでどのような事故が起きたのかも詳細に開示されています。
強靭な管理体制の裏には、EHSの専門家の配置、現場での検査、細かい指導、従業員との密なエンゲージメント、具体的な測定目標があるようです。
Baxter (Healthcare service)
もう一つご紹介する企業は、特定分野に特化したヘルスケアサービスを手がけるアメリカのBaxter International Inc(以下、バクスター)です。
医薬品、医療機器を中心とした医療サービスを全世界に提供しています。
バクスターでは、8つの重要課題が特定されており、その中の一つである”Employee Health and Safety”が、EHS&Sへの取り組みに該当します。
バクスターのEHS&Sへの取り組みは、同社で採用されているEHS&Sのガイドラインに即したものとなっており、週ごとのシニアリーダー層への事故や現場の危険性に関する共有、定期的な取締役へのパフォーマンス報告を行われています。
安全や健康に取り組む体制が堅固な企業はやはりその成果が結果に現れます。その証拠として、バクスターは2019年に今までで最も低い記録可能な事故率を達成しました。さらにその事故率は、他業界を含むグローバル企業32社のうち8位となっており、高い水準に達していることが分かります。
バクスターはヘルスケアカンパニーであることを活かした従業員の健康を増進するための取り組みを行っています。
2019年に、BeSafe@Baxterというグローバルプログラムを全世界の従業員に対して提供を開始しました。
プログラムの中では、日々の安全意識を高めるために、”My Reason for Being Safe”と題して従業員に、どのような安全対策を講じたかについての記録を取ってもらっています。
この内容をEHS&S本部がリスク特定、具体的な安全対策・方針、ターゲットを策定するために利用したり、リスクの察知および具体的なアプローチ設計に繋げたりしています。
そのプログラムに、従業員の健康リスクを事前に把握するための仕組みを導入しています。
健康は仕事現場だけでなく、日々のライフスタイルの選択や家庭環境などからも大きく影響を受けるため、バクスターは従業員ごとの”Personal Wellness Profile”を回収し、健康リスクを調査しています。
回収された調査結果などは公表されていませんが、従業員のヘルスケアプログラムへの2020年の参加率が2019年に比べて38%上昇し、ゴールを達成しています。
バクスターでは、ガバナンスはさる事ながら、従業員の安全と健康が個人ベースで把握され、その調査内容がプログラム内容やEHS&S方針にしっかり反映されている仕組み作りがされていました。
まとめ
EHS&Sという枠組みで今回は企業の環境、従業員の健康と安全を守る取り組みをご紹介しましたが、枠組みが異なるだけで、サステナビリティに取り組む企業は環境や従業員を重要課題と捉え、経営方針や戦略に反映していると考えられます。
どのような枠組みであっても、企業が環境や従業員に対する適切な取り組みを行っている場合は本質的には同じです。
企業ごとの独自のイニシアチブや効果的な戦略をグッドプラクティスとして共有し、サステナビリティを進める企業が今後もEHS&Sの領域での活動も発展させることができるようにニュースやインサイト、ケーススタディを発信する機関も多く存在しています。
文中では、EHS&SはどちかというとCSR(企業の社会的責任)に近い活動であると述べました。
弊社はCSVを理念とし、社会的価値と経済的価値の共創を目指していますが、企業の基盤としてのCSR活動は組織体制に必要であり、インパクトマネジメントを行う際にもEHS&Sはしっかり考慮されなければならないと考えています。
CSR活動であったとしても、CSVよりの活動であったとしても、EHS&Sの取り組みが企業価値に貢献する道筋を統合的な枠組みで示す必要はあるでしょう。
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